小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

刻の流狼第二部 覇睦大陸編

INDEX|43ページ/85ページ|

次のページ前のページ
 

 溜息混じりに呟き剣を鞘に納めると、もう一本と共に壁に立てかける。
「これが逆だったならもう少し判ったと思うのだが……」
「仕方なき事。ローダーの存在が知れた事だけでも良しとせねば」
 探し求めた剣はディゾウヌの語った様に、この街に建てられている王城にある。
 これまで感じられなかった剣の共鳴が、持ち主にそれを示してくれた。
 引き離された片割れを求めるように、もう一つの体の在処を示しているのは判るのだが、どうしても細かい範囲の特定は不可能だった。
「問題なのは、あの王城の広さだな。見取り図でもあれば楽になるが、そんなに都合良くは進まないな」
 今まで好調すぎたのだ。
 王城までの手段は既にある。ハーパーと言う空中運搬係が居るからそれの心配はしていない。しかしその後が決まらない。
 降りる場所が適当では剣を捜す事は困難で、決して警護の兵に見つからないとも限らない。この件に関しては須臾達に頼る事も出来ないし、何よりハーパーが運べるのは一人だけだ。
「少し時間を掛けても情報を集める必要があるな」
「危険では無いか?」
「そう、危険だ。しかし、私は盗人ではない。勘だけを頼って宝の在処に行き着く事は出来ないよ」
 確かに、とハーパーは息をもらす。
 ソルティーの言う様に、出来る限り王城の内情を調べていた方が、盗み出す際に有利だ。その代わり下手をすれば、盗み出す前に容疑を掛けられる場合もある。
 これ以上運を試すだけの様な行動は避け、地道に情報収集を行った方が、退路を確保する為にも重要だった。
「此処まで来たんだ、出来る限りの事をしよう」
 肩の力を抜いたソルティーの言葉にハーパーは頷いた。





 翌日ソルティーは約束通りと言うか、須臾に引きずられると言うか、の状態で昨日の店に足を踏み入れたのは、まだ朱陽も昇ったばかりの頃だった。
「……どういう事だ」
 表情を堅くしたソルティーの前には須臾と恒河沙が座り、横には何故かミルナリスがニコニコしながら彼の腕に自分の腕を絡ませている。
「いやぁ、昨日ミルちゃんと約束したでしょう? でも、いつ来るか判らない相手を待たせるのは男として許せないじゃない? だから僕が、親切にも時間を決めてあげたのさ」
 言葉ではどう言っても、須臾の顔には内心の企みが滲み出していた。
「きゃー、須臾ってば、やっさしいぃ」
「いや〜それ程でも……あるかな?」
「もうやだぁ〜〜」
 横でクネクネと体を揺すられ、食べようとしたいた物がこぼれ落ちる。
「ねぇねぇ、名前教えて?」
 視線を逸らしたソルティーの前に顔を寄せ、昨日聞けなかった事から話題に入る。
「……グルーナ」
「ああん、もう、名前まで涼しげで良いっ! んでんで、歳は? 恋人居るの? ねぇ、教えてよぉ〜〜」
 ガクガクと体を揺すられ、次第にソルティーの眉が寄せられてきた。
 その様子に須臾は俯いて、テーブルの上に置いていた手を握り締め、肩を震わせて笑いを堪えた。
「ねぇってば、教えてよぉ」
「二十…八」
 根負けで呻くように答えると、ミルナリスの行動は一層激しさを増した。
「きゃぁ〜〜、二十八ですって、二十八! あたしが二十二だから、六歳の年齢差なら丁度良いじゃない、丁度! あん、もう、最高っ!」
 この調子では、ソルティーが四十や五十と答えても、ミルナリスなら丁度と言いそうだ。
「で、これが一番大切なんだけど、ずばり、恋人なんか居ますか!」
 あえて露骨に嫌そうな顔をしてやっているにも拘わらず、ミルナリスは真剣その物の顔で人差し指を突きだし、率直に聞いてきた
 それには須臾も恒河沙も耳を傾け、ソルティーは頭痛を感じる。
「答える義務は無いと思う」
 疲れ切った言葉でそう言ったが、ミルナリスは、チッチッ、と舌打ちしながら指を横に何度か振り、
「あるわ。あたし、あなたが好きだから。恋人が居ないなら、あたしがなりたい」
 一瞬辺りが静かになり、一斉にどよめきが湧き起こった。
 ミルナリスを目当ての男達だろうか、何人かは立ち上がり、ソルティーに向かって殺気立った視線を放ってくる。
 その中で恒河沙だけが複雑な表情を浮かべていたが、俯いていたので誰も気付かなかった。
 そんな淀んだ空気を、ソルティーは冷静に一切無視した。
「迷惑だな」
 もっと反応があると信じていた須臾の期待を裏切り、ソルティーの答えは冷静を通り越して冷たさまであった。
「どうしてぇ。これでも性格も体も自信あるわ! 顔だってそうよ!」
「そうだよ、こんな美人に言い寄られて嬉しくないの?」
 ソルティーは口を揃えて非難する二人に辟易し、決定的な言葉を切り出した。
「……好みの問題だな。それに、私には婚約者が居るから」
 その言葉に二人は驚いた顔でソルティーを見つめる。
「済まない。今日はこれで帰らせて貰うよ」
 強張った表情のまま動かない三人を余所に、ソルティーは今しか逃げられないと店を出た。
――街で襲われるかもな……。
 店を出ても絡み付いてくる殺気に、自然とソルティーの肩は落ちていくのだった。


「婚約者だって……そんなぁ。折角理想の恋人が現れたと思ったのに」
 今日の為に念入りに体を洗い、自分の持っている服の中でも一番お気に入りを着込み、三つ編みではなく女らしく束ねてきたと言うのに、全部が水の泡になった。
「仕方ないなぁ、あんなおじさんなんか忘れて、ミルちゃんは僕と楽しもうよ」
 それとなく彼女の横に座り、当初予定していた通りの言葉を手始めに須臾は行動を開始した。
 まさか婚約者という言葉が出てくるとは考えてもいなかったが、もとよりソルティーの好みを知っていたから、始めから須臾は彼がミルナリスに寄るとは考えていなかった。
――気落ちした彼女を優しく慰める僕。う〜ん、絵になるなぁ。
 邪な思いを乗せて須臾の手がミルナリスの肩に廻され、
「君には僕が居るじゃないか」
 と言おうとした瞬間、ミルナリスは勢いよく立ち上がる。
 その瞳は決して傷付いても、気落ちしてもいなかった。
「婚約者が何様よ! 今まで結婚していないって事は、親の決めたろくでもない女に決まってるわ! ああ、なんてグルーナ様はお可哀想な方なんでしょう。そんな女にあたしが負けてなるものですかっ!」
「ミル……ちゃん…?」
 椅子に片足を乗せ、握り締めた拳を高らかに上げ、ミルナリスは宣言する。
「待っててね、グルーナ様! あたし、絶対あなたの物になってあげる!!」
 そして店中に拍手が広がった。
 が、この時から、恒河沙を除いた店の全員がソルティーの敵となった。



 昼を過ぎ、夕刻となっても、須臾と恒河沙は店の中に居続けていた。
 居たかった訳ではない。帰れなかっただけだ。
 勿論ミルナリスの所為で。
「んでんで、今度は好きな食べ物は?」
 ソルティー略奪宣言から彼女は、延々彼の情報を二人から聞き出そうとしていた。
「知らない」
「う〜ん、何でも食べてるからね。決まってるのって無いなぁ」
「もう、役に立たないなぁ」
 期待していた事柄が一向に聞き出せず、ミルナリスは頬を膨らませる。