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刻の流狼第二部 覇睦大陸編

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 ここで恒河沙の代わりに自分がすると言うのは簡単であり、実際にもそうしてきたわけだが、今は取り敢えずの言い訳だけを口にした。
――どうせバレバレっぽいんだけどなぁ。
 聞き返される事はなかったが、ソルティーの表情を見れば想像は付く。そこからまた店の中へと視線を向けた時に、奥から新たに武器を持った者達が現れた。
『あらら、新手の出現』
「ああ、それよりあの男が逃げそうだ」
 現れたのは剣を奪いに来た男達だった。やっと現れた仕返しの相手に、恒河沙の矛先がそちらに向いた隙に、主人は身を置いていた場所から後ろに下がり始めていた。
『あ、ほんと。んじゃそろそろ終わりにしますか?』
「その方が良さそうだ」
 二人同時に店内に入ると、須臾は恒河沙に襲いかかろうとしていた男の背後の周り、背中に手を触れさせるだけで簡単に気絶させていき、ソルティーは逃げだそうとしていた主人の前に身を置いた。
「な…なっ……なんなんだお前達はっ!」
 自分の雇っていた男達の明らかな劣勢もあり、見覚えのない男の出現は主人から冷静さを奪った。
「あの子が言っていると思うが、剣を返して貰いに来た者だ。あれは私の剣だ」
「な……なんで……」
 助けを求めるように後ろを振り向いた主人が見たのは、残されたのが自分だけだという現実だった。
 自分の雇った男達が簡単に倒されて主人は、漸く顔色を青ざめたものへと変えた。
「剣…だと……? そんな物が、……ど、何処にある。何処に証拠があるんだ!」
『証拠ねぇ、僕達この男達に見覚えがあるんだけど』
「彼等はこの男達に剣を奪われたと言っている。それが証拠だ」
「はっ! ならそいつ等が勝手にしでかした事だろ、お、俺には関係ない。第一、その剣がこの店の何処にあるって言うんだ」
 とっくに隠したと言わんばかりの言葉尻に、主人の自信が伺える。
 確かに見つけ出せなければ、賊として訴えられても仕方のない状況だ。
「見つけだせば良いんだな?」
「あればの話だがな」
 余程隠し場所に自信があるのか、主人の言葉に淀みはなかった。
『なぁ須臾』
『ん?』
『もうどっか他んとこに持ってってるってこと、あったりする?』
『……ハハ、そんな事、無いわけではないな』
 店の裏口まで調べて張り込んでいたわけではない。言い訳をするならば、雇い主の命令に従っただけなのだが、流石に須臾の声から張りは消えていた。
「そうか……、そうさせて貰おう」
 須臾達の心配を他所に、ソルティーはさして気にした風ではなく、主人の腕を掴むと突き飛ばすように須臾に預け、自らは剣を抜いた。
「何をするつもりだっ」
「剣を捜すだけだ」
 ソルティーはそう言うと主人に背を向け、店奥の壁の前に立った。
 そこには並列に剣が飾られ、それ以外には何の変哲もない。だがソルティーはそこで剣を上段に構えて見せた。
「やっ、止めろっ!!」
 主人の叫びは明らか緊急を告げていた。
 その声を聞けば須臾達の口元には自然と笑み浮かび、ソルティーが剣を振り下ろす合図にもなった。
 飾られていた売り物の剣は、ソルティーの剣の軌道に沿って分離し、金属特有の音を立て床に落ちた。そして壁にも縦に斬り込みが入り、こちらはゆっくりと右側が傾いでいった。
「あ……あ……ああ〜〜」
 壁の向こう側に現れた新たな空間に、主人は力なく床に座り込んでしまう。
 壁に隠し扉を作るのではなく、壁全体を扉にした巧妙な仕掛けは、そう簡単に気付かれる物ではない。
 それなのに店内をくまなく調べたわけでもない男にあっさりと見抜かれ、これまでに様々な手を使って集めてきた者達が、白日の下にさらされた。
『ひゃぁ〜〜』
『すっげぇ』
 壁の中から現れた数々の高価な剣よりも、ソルティーが初めて見せた剣技に驚嘆の声が漏れる。
 ある程度の予想はしていたが、目の当たりとした自分達の雇い主の腕は、矢張り何故彼が自分達を必要としているのか、を疑問に思うには充分な程だった。
「私の剣はこれだ」
 ソルティーは剣を鞘に戻すと、隠し部屋の一番手前に置かれていた剣を取り、蒼白した主人へ向き直る。
 主人はそこで一瞬は息を詰めたが、何かを思いついたように口の端を釣り上げた。
「で、証拠は? それがあんたのだと言う証拠があんのか?!」
 狼狽は著しいものが感じられたが、自分から盗人であるとは認められはしない。主人は恒河沙に捕らわれながら、なお剣の所有者は自分であると言い切る。
「いい加減諦めたら良いのに」
「いや、確かにこれが私の物だと言う、確固たる証拠はないな」
「ソルティー?」
 主人の言い分を否定しない台詞に恒河沙は疑問を感じて彼の方を見ると、鞘から剣を抜きながら酷薄な笑みを浮かべる姿があった。
「しかし、これが貴様のだと言う証拠もない。――いや、もし有ったとしても、貴様が消えれば、この話は解決するな」
 引き出され鈍い光を放つ剣先が、聞かされた声音と同じ冷たさで喉に触れた。
「ひっ、人ご……っ!」
 大声を出そうとする口を恒河沙の手が塞ぎ、掴んだ腕を後ろで締め上げる。
 本気で主人を殺すつもりなど無いと判断しての、咄嗟の行動だった。
 ただ、その一部始終を傍観していた須臾と、ソルティーの視線を受け止めていた主人は、彼の言葉が本気である事は理解していた。
 息をするが如く命を奪う。彼の瞳は、正にそれだ。
「どうする? 貴様一人居なくなった所で、慌てる者など存在しないだろ。それよりも、胸を撫で下ろす者の方が多いかも知れないな。現にこの物音でも、誰も様子を伺う者もない。貴様の取る道は二つ、私の言う事を聞くか、今死ぬかだ」
 首に刃先が触れ、熱い感触と何かが伝う感触がした。
 駆け引きなど存在しない脅迫の言葉には、一人分の命の重さも感じられない。言葉に込められた感情は、殺意だけだろう。
「どうする? 死ぬか?」
 もう一度聞かれ、主人は恐怖からの涙を流し首を横に振った。
 自分のしている事が、誉められる事ではないと承知で踏み入れた道だったし、命の危険は常から納得していた。しかし目の前に存在する死を受け入れる勇気を持ち合わせて居なかった事に、たった今気が付いた。
「賢明だな」
 ソルティーは剣を主人から引くと彼に侮蔑の笑みを見せ、主人は屈辱を感じながらもそれに逆らう意思は失せていた。
『もう解放しても構わない』
『いいの? 逃げるかも知れないぜ』
『逃げる余裕があればな』
『……そう』
 触れている部分から伝わる主人の震えに納得し、彼を解放するとその体は力無く床に崩れ落ちた。
「あ……あんた等、一体何者なんだ」
 自分が大枚叩いて雇った者達を見渡しながら主人はそれだけを聞いたが、その答えをだれも口にしなかった。
 取り戻した剣を腰に掛け、ソルティーは須臾の隣まで歩み寄り一つの石を手渡し、小さく耳打ちする。
 それに直ぐに頷くと、今度は主人の元に須臾が近づき、恒河沙に通訳を頼んだ。
『今からあんたに契約の呪紋を施すから。もし運良く俺達から逃げ出せても、五日の内に更新か解呪しなければあんたの命はそこで終わり。因みに紫翠の物だから、そう簡単に解呪出来ると思ってたら大間違いだよ』
「冗談は止めてくれ!」