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茶房 クロッカス その3

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 乾杯が終わると、待ち兼ねたように店のあっちこっちでお客さん同士の会話が弾み、賑やかなおしゃべりの声と、愉しそうな笑い声で店内は満たされていった。
「マスター、大盛況で良かったですなぁ」
「オォー、光さん。お陰様で……。こんなに沢山の人に来てもらえるとは思ってなかったですよ! 本当に嬉しいです」
「恋歌さんときりんさんも、遠くからよくいらして下さいました」
「うちら、ほんまにラッキーやったわぁ。だって、いくら何でもクリスマスパーティーのためだけやったら、来れまへんもん。なぁ、きりんちゃん」
「ほんまやぁー、タイミング良かったわぁ!」
「それはそうと恋歌さん、今日の着物はまたえらく色っぽいですねぇ。黒地に真っ赤な薔薇の花ですか? 素敵ですよ! 確か前に来られた時の着物も薔薇の柄じゃあなかったですか?」
「まぁ、マスター! よく覚えていますねぇ」
 そう言うと恋歌さんはフフッと笑って、
「でもね、マスター。今日のこの着物は振り袖やからね、うちみたいな年のもんは、本当は着たらあかんのんよ。振り袖いうのは、ほんまは二十歳未満の独身の女性が着るもんなんよ。けど最近では、そういうこともあんまり五月蝿う言わんようになったしぃ、うちも気持ちだけは若うありたいと思うてるから、敢えてこれ着て来たんよぅ」
「へぇー、そうなんですか? 俺は男だし、着物のことはまったく分からんけど、似合ってるんだからいいんじゃないですか?」
「――ほう、きりんさんは、今日は白のロングドレスですか。その片方だけ肩を出すのって色っぽいですねぇ。おまけにさっきから気になってたんですが、後ろのスリットが深くて、歩くとその間から白い脚がチラチラ見えて、すごいセクシーですよ! 男ならみんなそそられること請け合いです。ははは……」
「まぁマスターったら、案外エッチなんやわぁ〜。ウフフ」
 きりんさんは万更でもなさそうに笑った。
「まぁ俺も一応独身の男ですからね。あはは……」
「マスターは正直やねぇ」と、恋歌さん。
「まぁ俺の場合、それぐらいしか取り柄ないですから……」
 俺がそう言うと、近くにいたみんなが一斉に笑った。
「じゃあ、この後まだプレゼント交換もありますから、ゆっくり楽しんで行って下さい」
 俺はそう言い置くと、今度は一旦カウンターの中へ戻り、トナカイのデザインの帽子を手にあかはなさんの所へと向かった。

 あかはなさんは、みっこさんと会話が弾んでいた。
「いゃ〜、みっこさん。ちょっとお邪魔しますよ」
「あら、マスター。今日はお招き頂きありがとう。本当に楽しいですわ」
「良かった! みっこさんに喜んでもらえれば、それだけでやった価値があるというもんですよ。あははは……」
「まっ、マスターったら、お世辞が上手なのねぇ〜。ふふっ」
「違いますよ。お世辞なんかじゃないですよ。それに今日のみっこさんは、先日のハイキングの時とは違って、ぐっと渋い茶色のスーツ姿で……。とっても似合ってますよ。まるで何処かのお金持ちの上品な奥様みたいだ。お付きの人はどちらですかな? あはは……」
 素敵なみっこさんの姿に、俺はついつい下らない冗談を言ってしまった。
「まぁ〜、またご冗談ばっかりぃ〜。うふふっ」
 みっこさんが嬉しそうに笑った。
「ところで、あかはなさん。実は予約の電話をもらった時から、是非これを、あかはなさんに被ってもらおうと思っていたんですが、どうでしょう。被ってもらえますか?」
 俺はそう言って、手にしたトナカイの帽子をあかはなさんの目の前に差し出した。
「ほほう、これをわしが被るんですかな? 今まで長く生きて来ましたが、こんな物を被ったことは一度もないのですが、被った方がいいんですかな?」
「はぁ、どうしてもお嫌なら無理にとは言いませんが……。単なる俺のオヤジギャグみたいなもんですからね。あははは……。お嫌ですか?」
「いやいや、マスターのお望みとあらば、被りましょうぞ!」
「ホントですかぁ!? 」
「はい、OKですよ」
 そう言ってあかはなさんは、いつもの俺のように手でオッケーサインを作ると、トナカイの帽子を手に取り早速自分の頭に載せた。
「あらっ! あかはなさん、よく似合いましてよぉ〜。ほほほ……」
 みっこさんのその言葉に気を良くしたのか、あかはなさんは帽子を被って、その周りを人の間をくぐってクルクルと回り始めた。
 すると、すかさず良くんたちが今までの曲を止めて、『赤鼻のとなかいさん』の演奏を始めた。
 みんなは、拍手をしながらあかはなさんを見守った。
 あかはなさんの頭の上で、トナカイの角が揺れていた。
 あかはなさんは少しお酒を飲んでいたから、その酔いも手伝ってのことだろうが、今度はみっこさんの手を取ってダンスを始めた。
 きっと若い頃には、社交ダンスでずいぶん沢山の女性を酔わせたのだろう。
 七十歳とは思えないような弾んだステップを踏んで、器用にみっこさんをリードしていた。