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茶房 クロッカス その3

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 その翌日から、少しずつ予約の電話が入るようになった。
 どのくらいの人が来てくれるやら……。多少の不安はあるが、俺は益々楽しみになった。

 そしていよいよ、当日がやってきた。

 今日は朝から大忙しだった。
 店には当然朝早くから来て、まず飾り付けから取り掛かった。もちろん沙耶ちゃんも、いつもよりぐっと早く来てくれた。
 午後のゆったりタイムを使って、少し前から二人で作り溜めたカラフルな色紙を輪にして、長〜く長〜くつなげた物を、店の四方の天井から対角線状に渡し、更にその合間をバランスよく飾っていった。
 所々に、パステルカラーのティッシュのような薄紙を幾重にも重ねて作った大振りな花を、押しピンで一つずつ止めてみた。
 これだけでもかなり華やいだ雰囲気になった。
 いつもは大して色気のない俺の店が見違えるようだ。
 クリスマスツリーは礼子さんに手配してもらって、既に一週間以上も前からリースの木を置いてある。もちろん飾りつけもキラキラだ。
 お客さんたちが、店に一歩入った時の驚く顔を思い浮かべると楽しくて、自然に顔がほころんだ。

 店の飾り付けがほぼ終わった頃、約束通り礼子さんが飾り付けのための花を持って来てくれた。
 いつもよりぐっと華やかさが出るような可愛い花々を、手早く各テーブルや主な場所に活けてくれた。
「礼子さん、とても素敵だよ。ありがとう」
 俺は一言礼を言うと、別に一本だけ用意してもらった白い菊の花を小さな花瓶に差して、あの人が好きだった、外の花壇が見えるボックス席のテーブルの片隅に置いた。そしてアメリカンコーヒーを入れたカップを傍に添えた。
「水無月さん、あなたが今日みたいな日に来ないはずはないよねっ。あなたが好きだったアメリカンを淹れたから、一緒に楽しんで行って下さい」
 そう心の中で呟き、そっと手を合わせた。
 ふと顔を上げて二人の方を見ると、二人も同様に手を合わせてくれていた。
《あの時と同じだ》
 そう思うと涙が滲んだ。