茶房 クロッカス その3
珍しい人が来る時というのは、重なるもんなんだなあ……。
その日の午後には、また珍しい二人連れが現れた。
カラ〜ン コロ〜ン
カウベルの音に入り口へ目を向けると、男性が二人連れ立って入って来た。
「いらっしゃい」
俺はそう言いながら、二人ににこやかに笑いかけた。
「――やぁー、また来てくれたんですねっ」
「あれっ? マスター、俺たちのこと覚えてるんだ! こりゃ嬉しいなぁ、ねぇ、みのさん」
そう言うと、連れの男性に同意を求めるように笑いかけた。
「うん、確かに。あれからずいぶん経つのによく私たちのこと覚えてましたね」
「そりゃあワイドショーと怪獣番組ですから、忘れやしませんよ! ははは」
「は? ワイドショーと……」
「――怪獣番組?」
二人は何を言ってんだ? って顔で、お互い首をひねっていた。
「まぁそんなことはどうでもいいから、ともかく座って下さいよ。みのさん、なおごんさん」
「おっと、名前までちゃんと覚えてくれてたなんて、マジ嬉しいっす! ねー、みのさん」
「うん、本当にそうだ。来て良かったよ」
そう言ったみのさんは嬉しそうに微笑むと、続けてこう言った。
「実は今日は、マスターとの約束を果たしに来たんですよ。フフッ、マスターの方はもう忘れてるかも知れませんがね」
「ん? 約束ですかぁ……?」
俺は二人のコーヒーを準備しながら、思考を巡らせた。
「――あっ! もしかしたらあれですか? 以前、お二人が書いた作品を読ませてくれると言ってた……」
「ピンポーン! 大当たりっ」
なおごんさんが指でVサインを作って言った。
「ひぇー、マジですかぁ!? そりゃあ嬉しいなぁ」
「実は今、私たちの仲間内で、小説の公募に応募するのが小さなブームになっていましてね、私たちも頑張って応募してみたんですよ。結果が出るのはまだ大分先になるので、その前に、試しに一般の人に読んでもらおうということになりましてね。以前マスターが読みたいと言ってくれたのを思い出して、今日はその原稿のコピーを持って来たんですよ」
そう言ってみのさんは持っていたバッグから大判の封筒を取り出すと、それをカウンター越しに俺に差し出した。
「あっ俺も……」
そう言ったなおごんさんも同様に差し出した。
俺は二つの封筒の表面に目を落とした。
そこには、小説のタイトルが書いてあった。
《フム、みのさんのが『赤いバラの告白』で、なおごんさんのは『乙姫 〔新浦島太郎伝説〕』かあ、なかなか面白そうだ》
そう思った俺は二人に、
「いやー、これはなかなか面白そうですなぁ、是非とも読ませてもらいますよ! ありがとう!」と、満面の笑顔で礼を言った。
「いや、そう言ってもらえると、こちらこそありがとう! ですよ。なぁ、なおごん」
「うん、まったくだ!」
作品名:茶房 クロッカス その3 作家名:ゆうか♪