茶房 クロッカス その3
まもなく出勤してきた沙耶ちゃんも、途中から会話に加わった。
「おはようございます、マスター。あら、もうお客さんですか?」
「あぁ、おはよう沙耶ちゃん。沙耶ちゃんは、光さんとは会うのは初めてだっけ?」
「えぇマスター、たぶんそうだと思います」
「光さん、いらっしゃい。私、沙耶って言います。宜しくねっ!」
沙耶ちゃんは、光さんに向かってそう言うと、にっこりと微笑んだ。
「あぁ、沙耶さんですか? 私は光 幻視と言います。宜しく頼みます」
二人の挨拶が終わると、早速クリスマスパーティの話題に戻った。そして益々話は盛り上がった。
「でも光さん、お仲間と言っても、確か住んでるのは関西でしたよね。そんな遠くからわざわざ来られますかねぇ?」と、俺が尋ねると、
「あぁ、実はちょうどその頃、歌会があるんですよ。私にとっては年末の恒例なんですが……。それに今回は、あのお二人も出席されることになってまして、こちらへ来られる予定なんです」
「ははぁ、歌会があるんですか? じゃあその便でこちらに……ということですか?」
「はい、ちょうどタイミングが良かったですなぁ。ははは……」
「でも光さん、歌会ってお昼間じゃないんですか?」
と、沙耶ちゃんが聞いた。
「大丈夫、歌会は夕方からなんですよ。それに、昼間は特に予定は入れてなかったんですわ」
光さんは、うんうんと頷きながらにこやかにそう言った。
「確か、恋歌さんときりんちゃんでしたよねっ」
「はいそうです。マスター良く覚えていらっしゃいますなぁ」
「あ、だって特徴のある人たちでしたからね」
そう言って俺は思い出し笑いをした。
「そう言えば、沙耶ちゃんは知らないんだよなぁ」
「ええ、どんな人たちなんですか? その恋歌さんときりんちゃんて人は?」
沙耶ちゃんが可愛く小首を傾げて聞いた。
「うん、恋歌さんときりんちゃんというのは、光さんの創作仲間で関西にお住まいの人なんだよ。以前、一度だけうちの店に来られたことがあってね。で、その時にねっ、ぐっふふふ……」
俺は、思い出して笑ってしまった。
「いやだぁー、マスターったら……。何を思い出し笑いしてるんですかぁ?」
「あははは。ごめん、ごめん。実はその時にね、恋歌さんがこの店の名前をクロッカスじゃなくて、クロワッサンだと勘違いしててね、あははは、それで、みんなで大笑いになったんだよ」
「ねぇ、光さん!」
「いやはや、そうでしたなぁ。あっはっはっ!」
相変わらず豪快に光さんは笑った。
「へぇ〜、そんなことがあったんだぁ。楽しそうな人たちみたいですねっ」
「あぁ、その二人が来てくれたらきっと、一段と楽しいパーティになるかもな!」
「あ、じゃあ光さん、是非お二人を誘って来て下さいネ!」
「はいはい、わかりましたよ。必ずお二人をお連れしましょうな」
「あ、今思い付いたんですけど、マスター。プレゼント交換するってどうかな?」
沙耶ちゃんが、突然のアイデアを提案した。
「うん? プレゼント交換?」
俺は思わず頭をひねった。
「ええ、参加者がそれぞれ思い思いの物を持ち寄って、くじを作ってみんなでそれを引くんです。何が当たるかはお楽しみってことで、……どうかな?」
「うーん……どうなんだろ?」
「おぉ、マスター、それは面白そうじゃないですか。是非やりましょう!」
光さんはすっかり乗り気のようだった。
「そうですかぁ? 光さんもそう言うなら、そうしますか!」
俺はニヤリと笑って、光さんと沙耶ちゃんにウィンクをした。
「じゃあ、早速その準備をしてくれるかぃ? 沙耶ちゃん」
「はい! もちろんです。お任せ下さい!」
沙耶ちゃんは最敬礼をして笑った。
「本当にクリスマス当日が楽しみですなぁ。では私はこの辺で……」
そう言って光さんは帰って行った。
作品名:茶房 クロッカス その3 作家名:ゆうか♪