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茶房 クロッカス その3

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 数分後にはポスターが綺麗に出来上がった。
 俺は、ここはこうで、そこはそんな風に…と口を出すだけで、まるっきり手を出すことはなかった。結局ほとんど全部、沙耶ちゃんが一人で描いたのだった。
 口惜しいことに、俺が描いていたら絶対こうはならなかっただろう、と思えるような良い出来だった。
「沙耶ちゃん、すごく良いよ! 沙耶ちゃんてこういう才能もあるんだねー! 感心したよ」
 俺がそうやってベタ褒めすると、沙耶ちゃんは澄ましてこう言った。
「マスター、このくらいは普通ですよ! マスターがセンスなさ過ぎなんです!」
「あ、そう……」
《しょぼーん……。沙耶ちゃんは時々、強烈なことをズバッと言うんだよなあー。それが結構俺には、グサッと胸に刺さるんだけど……。まぁ、確かに言われた通りなんだけどさ……》
 俺はうじうじとこんなことを考えていた。
 すると沙耶ちゃんが、俺の心を見透かしたようにこう言った。
「マスター、人にはみんな得手不得手があるんです。マスターにも苦手なことがあるのは当然ですよ! でもそんな色々がいっぱい混ざり合って、その人の個性が出来上がってるんだよね。マスター、そう思わない?」
「えっ?!……」
 びっくりした俺は、咄嗟に何も言えなかった。
「やだマスター、そんなドングリみたいな目をして……。キャハハハ。ちょっとね、母の受け売りしちゃった!」
「あぁ、なんだ。お母さんの受け売りだったのか。びっくりしちゃったよ! 急にぐっと大人になったかと思った」
「えへへっ」
 そう言って笑うと、沙耶ちゃんはペロッと舌を出し、
「私……、マスターのそんな個性好きなんだよ!」と、言った。
「そ、それはそれは……どうもありがとう。沙耶ちゃんにそう言ってもらえるとは思ってなかったよ」
 俺は単純に嬉しくなって、つい顔がにやけてしまうのだった。
「それにしても、沙耶ちゃんのお母さんってそんなこと言うんだ」
 俺は感心してそう呟くと、ふと、亡くなった親父を思い出した。
 親父も時々、妙に説教くさいことや宗教がかったことを言うことがあって、俺が若い頃は鬱陶しいと感じたことも多々あったけど、今思うと案外その通りなのかもなぁと思うことばかりだ。
 そう言えば久しく夢にも出て来ないなぁ。
 俺の思考回路はどんどんあらぬ方へと向かって行った。

《そう言えばいつだかの夢でお袋が、俺にも運命の人がいるとか言ってたよなぁ……。でもまた一年が、もうすぐ終わっちゃうんだけど……。どうなってんだよー!!》
 最後はお袋に不満をぶつけていた。