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茶房 クロッカス その3

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 早くも一年は終わりに近づいていき、街を歩く人々もコート姿が目立ってきた。
 朝、自転車で走るのも肌寒い。ハンドルも冷たいし、サドルも冷えていてお尻が冷たい。ジャンパーの襟元をキッチリ締めて、少しでも風が入らないようする。
それでもしばらく走ると、少しずつ身体も暖まっていくんだけど、ほぼ暖まった頃には店に着く。
 店に入ると急いで暖房を入れて、いつお客さんが来ても良いように準備する。
外から来るお客さんは、少しでも早く暖まりたいだろうから……。

 朝の掃除を終え、ぼちぼちランチの準備を……と思う頃には沙耶ちゃんがやってくる。
「マスター、おはようございまーす!」
 今日も元気にやってきた。
「あぁ、おはよう! 今日も元気だなっ」と俺も応える。

 俺は毎朝、沙耶ちゃんの顔を見、声を聞くとホッとするようになっていた。
「なぁ、沙耶ちゃん。前にハイキングに行った時にさぁ、良くんが、クリスマスにはうちの店で生演奏をしてくれるって言ってたけど、どうなんだろ? 本当にやってくれるのかなぁ?」
「あっ、その件なら聞いてますよ。楽しみにしてるみたいでしたよ、彼」
「えっ、そうなんだ。そりゃあ嬉しいなぁー。じゃあそろそろポスター作って貼らなきゃなー。沙耶ちゃん手伝ってくれるかぃ?」
「もちろん!」
 そう言うと沙耶ちゃんは、俺の真似をして指を丸め、OKサインを作って見せた。
「あははは……。じゃ、宜しく頼むよ!」

 その日の午後のゆったりタイムに、早速俺は画用紙と十二色入りのサインペンを買ってきて、クリスマスパーティーのポスター作りを始めた。
 タイトルはもちろん『生ライブ&クリスマスパーティ in 茶房クロッカス』とした。
 さて、その内容をどうするか? だが、沙耶ちゃんとも検討して、一人三千円の会費制とした。
 用意した料理を勝手に取って食べられるようにセルフにし、飲み物もビール・オレンジジュース・コーラ・ウーロン茶をそれぞれ二十本ずつ用意することにした。
 一体何人くらい集まってくれるか全く見当もつかないから、まぁ店に入れる人数と言ったら二〜三十人がいいとこだろう。そう思って量を決めた。

「そうだ! オードブルは夏季さんの店で頼もう!」
 俺がそう言うと、沙耶ちゃんも、一も二もなく賛成してくれた。
 それにプラスして、店オリジナルの物も何か少し用意することにした。
「ケーキはどうしようか?」と、俺が言うと、
「私、作りましょうかぁ〜?」と、沙耶ちゃんが意外なことを言い出した。
「えぇーっ!? 沙耶ちゃんケーキ作れるのー?」
「あぁー! マスター。もしかしてそれって、私のこと馬鹿にしてないですかぁー?」
「うっ、そ、そんなことはないよ! ちょっと聞いてみただけだよ」
「ホントかしら?」
「もちろんだよ! じゃあケーキは沙耶ちゃんに任せるね」
《ほぉーーぅ》 俺は静かに、そして大きく息を吐き出した。
 沙耶ちゃんは疑いの眼差しでじーっと俺を見ていたが、俺は素知らぬ振りをして画用紙を眺め、沙耶ちゃんと話して決めた内容をどういう配置で描いていこうかと考えた。
 すると沙耶ちゃんがいきなり、俺の手に持っていた画用紙を横から奪うように取ると、サラサラとサインペンで描き始めた。
「うん?」
 俺は黙ってそれを見つめた。