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茶房 クロッカス その3

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 お盆が近付き、そっちこっちの町内では夏祭りが催されていた。
 相変わらず暑い毎日が続いていた。
 薫ちゃんはいよいよ来月結婚式を挙げるので、その準備が大変そうだったが、頼りないマスター〔俺〕のことが心配なのか、沙耶ちゃんに会うためなのかは分からないが、時々店に顔を出してくれた。
《やっぱり俺の人徳かぁ〜?》 (笑)

 礼子さんのお腹の赤ちゃんは順調だし、重さんも元気で仕事に行っている。
 小橋さんは相変わらず、優子さんとの全く進展のない飲むだけのデートを続けているようだった。

 その日は珍しく、京子ちゃんがオープンと同時にやって来た。
 カラ〜ン コロ〜ン
 カウベルも暑さに負けずに頑張っている。

「おー、京子ちゃんいらっしゃい! 今日はまた早いねー」
「マスター、おはよう〜。今日はこの後、阿部さんと駅で待ち合わせしてるの。だからその前にちょっとだけでも、マスターの顔を見て行こうかと思って……」
 そう言うと照れくさそうに「へへへっ」と笑った。
「可愛いこと言ってくれるなあ、京子ちゃんは……」
 そう言うと俺も「あはは」と笑った。
「紅茶ねっ」と京子ちゃんが言ったので、俺も「あいよっ」と応えた。

 紅茶を飲みながら京子ちゃんが話し始めた。
「マスター、昨日ね、うちの近所で夏祭りがあってねぇ、浴衣を着て阿部さんと一緒に行って来たのよ。金魚すくいや風船釣りをしたりして、とっても楽しかったわぁ。〔そして、つぶやくような声で〕でも京平が一緒だったらもっと……」
 そこまで言うと京子ちゃんは口をつぐんだ。
《京子ちゃん……。まだ、やっぱり京平のことが……》
「京子ちゃん、もうあんな奴のことなんか忘れちまいな! それよりその阿部さんとかいう人の方がよっぽど、京子ちゃんのこと大切にしてくれるんじゃないのかぃ?」
「ええ、そうかも知れない。昨日も阿部さんに、京平のことを話したの。そしたら『京子ちゃんの気持ちが変わるのを、じっと待つから……』と言ってくれて……」
「ふう―ん、そうだったんだぁ」
「うん。……だから、少しお付き合いしてみようかと思うんだけど……いいのかなぁ?」
「もちろんいいに決まってるじゃないか」

 俺がそう言っても、京子ちゃんは尚も不安そうに俺の顔をじっと見たから、俺は大きく頷いて見せた。
 京子ちゃんはやっと安心したのか、少し冷めた紅茶を一息に飲み干すと、
「じゃあマスター、私行って来るね。もうきっと、阿部さん駅で待ってると思うから」
 そう言うと京子ちゃんは、少しだけ淋しそうな笑顔を残して店を出て行った。
《阿部さんという人がどんな人かは分からないけど、本当に京子ちゃんを大切にしてくれるといいなぁ》と、つくづく思った。