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茶房 クロッカス その3

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 あれは夏の日のこと。
 高校二年の俺たちは夏休みで、近くの海へ海水浴に出かけた。
 待ち合わせ場所の駅にやって来た彼女は、涼しげなタンクトップにショートパンツ、そしてビーチサンダルを履き、手には透明なビニールの可愛いキャラクターバックを提げていた。もちろんその中には水着やタオルやビーチマット等が入っていた。
 俺たちは電車に乗って海水浴場に向かったが、電車の中には同じように海水浴に行く人がいっぱいだった。その人たちはみんな、同じような格好をして、申し合わせたように同じようなビニールのバックを下げていた。

「ねぇ、やっぱり泳ぎに行く人が多いね!」
「うん、こんなに暑けりゃみんな考えることは同じだねっ」
 俺たちは自分たちのことは棚に上げて、こんな会話を交わして笑った。
 電車が着いて、海の家が立ち並ぶ浜辺まで二人で歩いた。
 日差しはまだ午前中だというのに、やけに高いところから燦々とまぶしく降り注いでいる。
「あ、そうだ。日焼け止めクリームを持ってきたんだぁ。後で悟郎くん塗ってくれる?」
「うん、いいよ。でも俺は、優子が日に焼けて黒くなっても好きだよ」
「うふふ、嬉しいっ。でも焼けるとあとがヒリヒリして痛いのよ」
「あっ、そうか。それじゃやっぱり塗った方がいいよな。俺なんか元々が地黒だから、少々焼けたって変わりないしさっ。あははは……」

 浜辺に着くと、色々迷った末に一軒の海の家に入り、荷物を置いて更衣室で服を着替えた。俺の方が先に着替えが終わって、海の家の座敷に座って待っていると、水着に着替えた優子が出てきた。
《おぉーーぅ! 何て素敵なんだ!》
 優子は、トロピカルデザインで、華やかなイメージの水着を着ていた。
 その水着はビキニになっていて、ブラジャーの部分は後ろでリボン状に紐で括ってあった。肩紐のようなものがないタイプだった。
《もし、ポロッと取れたらどうするんだ!?》
 何だかちょっと心配になった。
 水着の下は、ショーツの周りにヒラヒラのフリルが揺れていて、その少し上には可愛いおへそが覗いていた。
《うーーん、なんてキュートなんだぁ!》
 さっき頼まれた通り、俺は優子の背中や腕や首筋に日焼け止めクリームを塗ってあげた。
 何だか俺の手が優子の肌に触れる度、俺の心臓は勝手にドキドキして、その音が優子に聞こえるんじゃないかと内心ヒヤヒヤした。
 塗り終わると俺たちは手をつないで、水際までビーチサンダルを履いて走って行った。ちょっとでも早く水に入りたくて、子供みたいに何だか嬉しくてはしゃいでいた。
 そしていよいよ水に入る時、俺は何も考えずに一気にバッシャーっと水を撥ねて中へズンズン入って行ったが、優子は水際で、水を手に掬って身体へ少しずつ掛けている。
「もうー、何やってんだよー! 早く入って来いよー」そう叫ぶ俺に、
「ちゃんと少しずつ身体を慣らしていかないといけなのよぉー」そう答えた。
 俺は急いで水際に戻ると、いきなりバッシャーっと水を掬って優子に掛けた。
「キャーーッ! もう 何するのよぉー!」
 優子が手を振り上げて、殴る格好をして俺に迫ってきた。
「ヒャッホーー!!」
 俺は奇声を発して、海へ向かって走って逃げた。
「こら待てぇーーぃ!」
 優子が笑いながら追いかけてきた。
 少し走った俺は、わざと優子に捕まってやった。
 俺と優子はもつれ合うように水に潜った。
 そして浮かび上がった時、優子の不意をついて俺はチュッとキスした。
 優子はびっくりして目を見張り、そしてクスッと笑った。
 俺たちはふざけ合いながら泳いだり、浜でビーチボールで遊んだり、そして疲れると浜辺にシートを敷いて、その上で寝っ転がって休憩を取ったりした。
 午後になり、さすがに疲れた俺たちは、海の家のおばさんに別れを告げて、帰りの電車に乗るため駅に向かって歩いた。
「今日は楽しかったねぇ〜」二人で話した。
 あの日は本当に楽しかったなぁ〜。