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茶房 クロッカス その3

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「――そう言えばコロさん。聞こうと思ってたんですが、その格好から察するところ、もしかして今日はバイクでここまで来たんですか?」
「あぁ、わかりますか? アッハッハ、こんな年になってもバイクが好きでしてねー、毎週仲間とツーに行っとるんですわ」
「ん? ツーと言うのは?」
「あぁ、ツーと言うのはツーリングのことですがな」
「あぁ、なるほど、ツーリング……のことですか、あはは……」
「コロさんたら、こんな年になってもバイクが好きなもんだから、私まで後ろに乗せられちゃって、何十年ぶりかでヘルメットをかぶっちゃったわぁ、ウフフ…」
 草愛さんが、コロさんの方を見ながらそう言うと、茶目っ気たっぷりに大袈裟なウィンクをして見せた。
 それを見た重さんが、
「おゃ、草愛さん、目にゴミでも入ったんですかな?」 
 と言ったもんで、みんなが一斉に笑った。

 右手をふと見上げると、山の木々が深い緑を称え、静かに風に揺れていた。
 足元には名も知らぬ小さな花が薄紫の花びらを付けて、目立たぬようにひっそりと咲いている。
《アァー! 何か気分がリフレッシュするなぁ〜。こういうのを命の選択、うん? 洗濯……って言うんだなぁきっと》
 そう思ってにやりとした。
 みんな相変わらず思い思いの相手とおしゃべりしながらのんびりと歩いていたが、ふと腕時計を見るとすでに十二時を少し過ぎている。
「みんなー! ここらで昼飯にしようかあ」
 と、俺が少し大きい声で言うと、
「そうですね、みんなもボチボチ疲れて来ているだろうし、そこの川原辺りでお昼にしましょうよ」
 と良くんが言い、そばで沙耶ちゃんも頷いている。
 みんなも賛成の様子で「そうしよう!」と言いながら川原へ降りて行った。

「コロさんたちもお弁当を持って来ているんでしょ? 一緒に食べましょうよ」と、俺が言うと、
「せっかくですが、弁当は持って来ていないんですわ。何せ、最初からここに来るために来たわけじゃなくて、ふと思いついて寄っただけなもので……。昼はどこぞのレストランにでも入るつもりにしとったんですわ」
「そうだったんですか……。あっ! だったらちょうどいいや。実は、今日来る予定だったメンバーの二人が急に来れなくなって、弁当が二つ余ってるんですよ。良かったらそれを食べて下さいよ」
「いや、それは……」
「いや、さっきのカメラのお返しにもなりますから……。遠慮はいりませんよ」
「そうですかあ? じゃあ、遠慮なく頂いて、皆さんと一緒によばれましょうかな」
 コロさんがそう言うと、
「私も皆さんとご一緒できれば嬉しいですわ」
 草愛さんもにこやかにそう言った。
 俺たちは川原に車座になって座り、持って来た弁当を広げた。
「おっ! こりゃあ旨そうだ。どこの弁当なんだ?」
 と、重さんが誰にともなく聞いた。
「これは夏季さんとこのお店のお弁当なのよ! 美味しそうでしょ? でも実際食べると分かるけど、本当に美味しいのよ! それを今日は、夏季さんの顔で特別価格にサービスしてもらったのよ。皆さん夏季さんにお礼を言ってね〜」
 沙耶ちゃんはみんなの顔を一巡しながらそう言った。
「そうだったんだ。夏季さん、この弁当本当に旨いよ、ありがとさん!」
 と、小橋さん。
「うん、ホントだよなぁー、うめぇよ。今度から俺も、晩飯は夏季さんの店に買いに行こうかなぁ」と、重さん。
「あら、ホントですか〜? 重さん」
 夏季さんはそう言って笑うと、
「――皆さんに喜んでもらえれば、私もとっても嬉しいです」と言った。
「うん、重さん。俺も夏季さんの店で時々弁当買って帰るんだぜ! ミックスなんて一番のオススメだよ! 栄養バランスもいいしさっ」