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茶房 クロッカス その3

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 俺たちはいつの間にか輪になって話をしていたようだ。
 そこへいきなり、どこからともなく声が聞こえた。
「どうかしたんですかな?  皆さん」と。
 俺たちはお互いに顔を見合わせ、声の主を探した。
 どうも仲間内の声ではないようなので、俺が輪の外に目をやると、そこには一人の年配の男性が立っていた。
「あ、あの、何か……?」
 俺が代表して尋ねた。
「あー、いや、何か揉めていらっしゃたんではないんですかな? ちょっとそんな風に見えたもんで……」
「あ、すいません。ご心配をかけちゃいましたかねぇ」
「何かあったんですか?」と、人の良さそうな笑顔で聞いて来た。
「いや、大したことではないんですが、俺がカメラを忘れちゃったんですよ」
「あぁ、なるほど、この辺りには売ってないですからねぇ。カメラなんて……」
「――コロさんあなた、確かカメラを余分に持ってるんじゃなかったの?」
 と、突然女性の声がした。
 俺がその声のするほうを見ると、すぐそばで俺たちの会話をじーーっと聞いていた女性がいた。
《あっ、奥さんなのか?》俺は咄嗟にそう思い
「あーすみません、せっかくの行楽の途中なのに……」とその人に言った。
「いえ、そんなことはいいんですよ。それよりカメラが必要なんでしょ?」
「あぁ、はい。いゃーでも……」
 と、俺が返事に困っていると、
「コロさん、あなたデジカメとバカちょんと両方持ってたわよねぇ〜、そのバカちょんをあげたらぁ?」と、男性に言ってくれた。
「あっ、お気持ちはありがたいんだけど、とてもそこまでは……」
「いやいや、困った時はお互い様ですよ。良かったらこれをお使いなさい」
 そう言ってその男性は、使い捨てのバカちょんカメラを俺に差し出した。
「――あ、じゃあ遠慮なく頂きます。助かりましたよ。正直な所みんなに責められてたもんで、えへへへっ。俺は前田悟郎です。これも何かのご縁でしょうから、みんなを紹介しますね」
 俺がそう言うと、
「そうですね、人の縁は大切ですからなぁ。オラは頃山和義、彼女は草田愛子さんです」
 そばの女性を指差しながらそう言った。
「今コロさんが言ったように、私、草田愛子って言いますが、いつも草愛と書いて『そうあいさん』と呼ばれてますの。良かったら皆さんもそう呼んで下さいな」
「草愛さんですか? ――えっ? 苗字が違うと言うことはご夫婦ではないんですか?」
「まあー、コロさんと私がですかぁ? あっはっはっ……違いますよ!」
「――私たちは夫婦ではないんです。実は昔の同級生なんですよ。たまたまちょっとしたことでまた出会って……、と言っても実際に会ったわけじゃないんですが、その結果、今日会うことになったんですよ」
 と、草愛さんが言い、
「そうなんですよ、今日会うのはもう何十年ぶりですかな。お互い年をとりましたわ。わっはっはっは」
 コロさんもそう言って豪快に笑った。