茶房 クロッカス その3
まもなく『T峡入り口』と書いた看板がある所に着いた。
「じゃあここで一枚記念写真でも撮ろうよ」
そう言って俺はみんなをバランスよく並ばせると、カメラを出そうとリュックを開いた。
「んん? あれっ?……」
俺はリュックの中をひっくり返して探した。
「マスター、まだかよ!」
重さんがしびれを切らしてそう言った。
「うーん、確かに入れたはずなんだけどなぁ……」
「えぇー?! まさか忘れたなんて言わないよなー、悟郎ちゃん」
今度は小橋さんが俺を責めるような言い方をする。
「あーゴメン! どうも忘れたみたいだ」
「もう! マスターったらー、カメラはマスターが持って来るって約束だったでしょう!」
と沙耶ちゃんが、半分怒り、半分呆れたように言った。
「まぁ、そんなに責めても……。悟郎さんだって忘れることもあるわよ」
夏季さんが助け舟を出してくれた。
《あぁ、やっぱり夏季さんは優しいなぁ……》
俺は自分の失敗を棚上げしてそんなことを考えていた。
「せっかくみんなで来たのに、写真の一枚もないんじゃやっぱり淋しいわねぇ」
おりゅうさんまでそう言い出した。
「どこか近くにコンビニとかないんですかね」
良くんが辺りをキョロキョロと見回した。
「いっくら何でもここは山の中よ。自販機くらいはあるけどコンビニまではないわよ」と沙耶ちゃんが言う。
「そうだよなぁ、みんな本当にゴメン!」
俺は謝るしかなかった。
《そう言えば、朝出てくる時に何か忘れてるような気がしたんだよなぁ》
と、今更気付いても手遅れだった。
作品名:茶房 クロッカス その3 作家名:ゆうか♪