茶房 クロッカス その3
いつもの悪い癖で、ついつい聞いてしまった。
「あのう、どちらへ行かれるんですか?」
「………?」
二人は最初顔を見合わせて、少しして若い方の人が言った。
「私たち、今日は今からT峡に紅葉狩りに行くんですよ。あなたは?」
「あー、一緒です! 俺たち、あ、仲間のみんなはバラバラに座ってるんだけど、俺たちも今日はT峡に紅葉狩りを兼ねてハイキングに行くんですよ!」
「まぁ〜偶然ですねぇ」
「俺は前田悟郎と言います。せっかくのご縁だからヨロシクー」
と、俺が言うと
「私はみっこと言います」と、年配の女性が言い
「私は姫子です」と、若い方の女性が言った。
俺たちは、電車が目的地に着くまでの間、楽しくおしゃべりをして過ごした。
みんなもそれぞれの席で楽しそうにおしゃべりしていた。
姫子さんはオーストラリアで牧場をやっていて、牛を数頭飼っているそうだ。
そして面白いことに、どの牛の名前も洋介と言うらしい。(あははは……)
理由を聞くと、その名前を付けてくれたのがネットで知り合った友達だとかで、洋介一号、洋介二号と呼ぶんだそうだ。これはおもしろい! しかし紛らわしそうだ。
彼女はご主人との間には子供がいない代わりに、可愛い犬を二匹飼っているとか。向こうの気候の話や、植物の話、おまけに大学へ行ってるとかで、大学での話など楽しい話をたくさん聞かせてもらった。
みっこさんは、すでにご主人は他界されているので、下の息子さんと二人で気楽な暮らしをしていて、時々お友達と旅行に行ったり、大好きな花の写真を撮りに行くのが趣味だとか……。
上の息子さんはすでに結婚し、可愛いお嫁さんを貰っていて、二人とは付かず離れずの良い関係を保っているらしい。
「お二人はどういうお知り合いなんですか?」
年齢も環境もまったく接点がない二人の関係が不思議で、俺は思いきって聞いてみた。
「うふふ、不思議に思うのは無理もないですよ。私たちだって不思議に思っているくらいですから……。実はね、私たちネットで知り合ったんですよ」
「へぇー、ネットで?」
俺はこう見えてアナログ人間だから、ネットなんていうものしたことないし、大体パソコン自体も持っていないし、どうやって知り合ったのか益々興味を持った。
「どうやって知り合うんですか?」
「私たちは二人とも、あるサイトに入ってるんですよ。そこには色んな趣味を持った人が集まっていて、それぞれの伝言板を持っているんです。その伝言板を通じてお友達ができるんですよ。楽しいですよぉー」
「はぁー、そうなんですか? それで二人もお友達になったんですか?」
「そうなの。みっこさんて、とっても真面目でいい方なんですよ。だからもう結構長くメールや伝言していて、今回ちょうど日本に帰って来ることになったので、是非この機会にお会いしたいと思って連絡して、そうして今日の出会いなんです」
「えっ? じゃあ今日が初対面なんですかぁ?」
「そうなんですよ!」二人が声を合わせて言った。
それにしては、二人の様子は、もう旧知の仲のように親しげに見えた。
俺は姫子さんを姫ちゃんと呼ばせてもらい、その後も、目的の駅に着くまで俺たち三人はずーっと楽しく会話を続けた。
作品名:茶房 クロッカス その3 作家名:ゆうか♪