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茶房 クロッカス その3

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「はい、沙耶ですぅ。――あぁ、刑事さんですかぁ! おはよーございます。……えーっ! そうなんですか? ……うーん、私も残念です。マスターもガッカリしちゃいますよ、きっと。……えぇ、わかりました。仕方ないですよねえ、お仕事じゃ。……はい、伝えておきます。……はい、わざわざ忙しいのにすいませんでした。……はい、じゃあまた」
 そう言って電話を切った沙耶ちゃんに、
「今の電話、もしかして、いつもの刑事さんかい?」と俺は聞いた。
「えぇ、何だか大きな事件があったらしくって、お休みにしてたのに急に呼び出しがかかったらしいの。せっかく楽しみにしてたのにとっても残念だけど、仕事じゃあしょうがないから、マスターに宜しく言って下さいって」
「そうか……、刑事さんも来れないのか。仕方ないよな仕事じゃあ。でもこれで弁当が二つ余っちゃうなー。ま、誰かが食べるかな」
 と、そこへ夏季さんが重そうな袋を下げてやって来た。
「マスター、沙耶ちゃん、おはようございます。皆さんはまだですか?」
「あぁもうすぐ来ると思うよ。その袋は弁当かぃ?」
「えぇ、そうよ。やっぱり九個もまとまると結構重いわ」
「うん、そうだろうね、俺が持つよ」
 俺は夏季さんから弁当を受け取りながら、
「沙耶ちゃん、この弁当の代金はどうするんだぃ?」と聞いてみた。
「あっ、それは後で、私がみんなから徴収して夏季さんに渡しますから」と沙耶ちゃんが答えた。
「夏季さん、それでいいかい?」と俺が確認すると、
「えぇ、もちろんいいわよ」
 夏季さんはそう言って、気持ちよく答えてくれた。

 今日の夏季さんの服装はピタッとした感じの伸縮性のあるストレートジーンズに、上はさっぱりしたオレンジ色のポロシャツで、胸に何だかワニのマークが付いている。
《うーーんと、何だっけ? 何とかってブランドだよなぁ〜。俺はブランドとかには全く興味がない方だから、こういう時に名前がすぐに出てこないんだよなぁ。あっ、ラコステ? だっけかぁ? 違ったかなぁ……》
 まぁそれはともかく、結構身体のラインがくっきり出てて、思ってた以上に魅力的なボディのようだった。
《グフッ。……あ、何だか俺、小橋さんに感化されてきてるかも……》
 沙耶ちゃんは若者らしく短パンのジーンズに、上は同じくジーンズのジャケット。ただし、その裾からはヒラヒラとレースが覗いていた。どうやら、最近の流行らしい。
 ジャケットの下には、可愛い色とりどりの柄の入ったタンクトップなのかな? Tシャツかも知れないが、そんな感じの服を着ている。
 多分その裾に、見えているヒラヒラが付いているものと思われるが、あんまりジロジロ見るわけにもいかないしなぁ。
 靴はお洒落で可愛いスニーカーだった。
 二人のスタイルを観察してる所へ、ようやく重さんがやってきた。
「やあーみんな、おはようさん。えっとー、この美人さんは何て言うんだ? マスター。初めて見る気がするけど……」
「あぁ、そうか。重さんと夏季さんは時間帯が違うから、あんまり会ったことないかもな。紹介するよ」
「――夏季さん、この人は重さんと言って、いつも仕事が終わった後の夕方の時間、五時過ぎに来るんだよ。で、重さん、こちらは夏季さん。駅のそばの商店街にお弁当屋があるだろう? あそこで働いているんだよ。重さんが来る時間には大抵そこで仕事してるから、なかなか会うことはないかもなっ。まぁ、せっかくこうして会えたんだからお互い仲良くしてよ」
 俺がそう言ってお互いを紹介すると、夏季さんと重さんはそれぞれに挨拶を交わしていた。
「重さん、今日はお一人なんですか? 奥様は?」と、夏季さんが聞いている。
「いゃぁー、俺は一人もんなんだよ。こんな冴えない男には嫁に来る人なんざぁいないよ。あっはっはっはっ」
《ん? 重さん、案外自分のことわかってる? にゃはは……》
「えーっ、そうなんですかぁ? ごめんなさいね、変なこと聞いちゃって!」
「――気を悪くしないで下さいネ」
「んにゃ、心配はいらねぇよ。こんなことで気を悪くなんてしねぇから」
「あぁ、重さんて案外いい人なんですね。何だかちょっと怖い人かと思ったけど、違うのね。うふふ……」
 夏季さんが嬉しそうに笑っている。
《何とか二人は仲良くやれそうだな》俺は少し安心した。