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茶房 クロッカス その3

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《もう何年もほとんど休みなしで働いて来たんだから、たまには休みを取っても罰は当たらんだろう。心身のリフレッシュも大事だよな!》と、自分でも思ったりした。
 その後、俺ははっきり行こうと言ったわけではないのに、沙耶ちゃんはまず夕方やって来た重さんに、そして丁度やって来た小橋さんにそのアイデアを話した。二人とも大いに乗り気で、三人は日程をいつにするか真剣に話し合っていた。
「俺はいつだっていいんだよう。休みの日ならなぁ」 
 重さんがそう言っていた。
「俺は日曜は関係ないけど、シフトで休みの日でないとなぁ、来れないよ」
 小橋さんも自分の都合を手帳を見ながら主張している。
 誰も俺に都合を聞く気はないようだ。何だか、俺だけ蚊帳の外にいるような、そんな気分がしなくもなかったが……。
 散々意見を戦わせ〔ちょっと大袈裟か?〕ようやく、三人の意見がまとまったようだった。
 せっかくの時期だから、紅葉が見られる内にということで、次の日曜日と決まったらしい。
 その後、俺が気付かない内に沙耶ちゃんは積極的にお客さんに声を掛けていて、知らぬ間に参加者が増えていた。

「マスター、ハイキングの参加者なんだけどねっ」
「うん、決まったのかぃ?」
「ええ、結局マスターも入れて全員で九人になったよ」
「えっ!? そんなにー? 誰が来るんだぃ?」
「えぇーーとねっ」
 そう言うと沙耶ちゃんはどこからかメモを出してきて、順に名前を呼び上げた。
「まずマスターでしょ、それから私、そして私の母も来たいって言うから入れて、それから重さんと小橋さん。えっと、それから小橋さんが行きつけのスナックのママさんも来るらしいのねっ。あと、お弁当屋の夏季さんに刑事さん、この人名前なんて言うんだっけ? それと、ついでに私の友達の良くんも誘っちゃった。以上九名でーす」
「ふぅーん、沙耶ちゃんよく集めたねー。感心しちゃったよ」
「だってどうせなら大勢の方が楽しいでしょ! で、マスターどこに行くぅ?」
「えっ? まだそれは決めてなかったのー?」
「はいっ!」
「えーーっ?! 普通は行く先を決めてから参加者を集めるものじゃないかい?」
「えっ、そうなの? でも誰も聞かなかったわよ」
「もうー、みんな呑気なんだなぁ」
「じゃあどうしようか、どこに行こうかー?」
 俺は天井を見ながら考えた。
 そんなに遠くじゃ時間的に無理だし、紅葉が見れて日帰りができて、尚且つハイキングができるような場所。
「うーーーーーん。あっそうだ! あそこがいいじゃん!」
「えぇっ、どこですかぁ〜?」
 沙耶ちゃんが小首を傾げて聞いた。
「あそこだよ。あそこ!」
 俺はそう言って笑った。
「マスター、あそこじゃわかりませんよぉー」
「フフッ、あそこ、T峡だよ!」
「あっ、T峡ねっ! それはいいかも。あそこなら電車で行って駅から少し歩けば行けるし、着いたら川沿いを歩く遊歩道があるんですよねぇ」
 そう言いながら沙耶ちゃんは遠くを見るような目をした。
「うん、あそこなら紅葉もきっと綺麗だよ。沙耶ちゃんも行ったことあるの?」
「ええ、昔、子供の頃家族で行ったことがあります。あの頃は楽しかったなぁ〜」
「ん? その頃って、もしかしたらまだお父さんも一緒にいた頃のことかぃ?」
「ええ、そうなんです。父と母と私と三人で行ったんです。小学校の一年か二年の頃だったかなぁ……。懐かしいなあ」
「そうなんだ。あ、そう言えば沙耶ちゃんのお母さんてまだ会ったことなかったけど、じゃあ今度会えるんだね」
「はい、一応来るって言ってましたよ。マスターにも会ってみたいって」
「そうかい? じゃあ楽しみだなぁ」
「じゃあ早速時間を調べて、みんなに連絡しなくちゃなっ」
「はい、任せて下さい。私、家で調べてきてみんなに連絡しますから」
 どうやら沙耶ちゃんは、参加の意思を確認した時に、それぞれの連絡先を聞いておいたらしい。
 早速目的地を知らせるために、自分の携帯で電話をかけ始めた。
 俺は《臨時休業のポップを作らなくちゃなぁ》と、考えていた。