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茶房 クロッカス その3

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 朝晩の冷え込みが、冬が近いことを物語っている。
 寒い季節になると、一人きりの俺の心は一層冷え込むようでイヤだ。
 今月は俺の誕生日もやってくる。しかしどうせ祝ってくれる人もいないし……そう考えると、ますます落ち込む。
 朝食をとりながらテレビを見ていると、やたら紅葉の話題ばかりだ。そうか〜、紅葉の時期か……、一緒に行く人でもいればなぁ。

 秋晴れの日が続いていた。
十一月に入って間もないある日の午後、例によって沙耶ちゃんと雑談をしているとハイキングの話になった。
「ハイキングかあ、いいよなぁ、清々しい水の流れる川の側の遊歩道をのんびり歩きながら、左右の紅葉を愛で、途中で休憩しながら握り飯を食べて、マイナスイオンをたっぷり浴びながら少し汗もかいて……。気分良いだろうなあ〜」
「マスター、一緒に行きましょうか〜?」
「えっ! 沙耶ちゃんとかい?」
「なんか不満そうですねェ」
 そう言うと、沙耶ちゃんはぷぅーっと頬を膨らませた。
「あ、いや、そういうわけじゃないよ。ただちょっとね……」
「ちょっと、何なんですか?」
「だって、えーっと、……だから、誤解されたらまずいだろ?」
「??! えーっ! マスターったら、そんなこと心配してたんですか〜? キャハハ」
 沙耶ちゃんが可笑しくて堪らないって感じで笑い転げた。
「……沙耶ちゃん、何もそんなに笑うことないだろ」
「だってあり得ないでしょう。私とマスターって誰が見たって親子って感じでしょ! あり得ない。絶対あり得ないから……」
 そう言って尚も笑い続けた。
「……はあ〜、そうですか、……どうせ俺は冴えないおじさんですよー」
 俺は小声でボソボソ呟き、心の中でアッカンベーと舌を出した。
「ねえマスター、じゃあみんなで行きましょうよ」
 ようやく笑い疲れたのか、沙耶ちゃんが思い付いたように言った。
「えっ? みんなで……って?」
「マスター、お店をお休みにして、お客さんたちにも何人か声を掛けて、みんなで行きましょうよ! きっと楽しいわよ〜」
「ふぅーん、お店を休んでかぁ……」
「マスター、ずうっと休み無しじゃないですか。たまには良いんじゃないですか? 気分転換も大切ですよぉ」
「うーん、まぁそうかもなぁ。ちょっと考えてみるか……」
 そう言うと、沙耶ちゃんが嬉しそうにうんうんと頷くように頭を振っている。
「フッ、沙耶ちゃんには叶わないなぁ」
 俺は何だか可笑しくなって、思わずアハハ……と笑ってしまった。
 薫ちゃんも楽しい子だったけど、沙耶ちゃんにはまた別に、人の気持ちをホッと和ませるものがあるような気がする。
 俺はその時すでに、沙耶ちゃんのアイデアに乗ってみようと思い始めていた。