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茶房 クロッカス その3

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 私、阿部さんに抱かれたらきっと彼のことを好きになって、京平のことは忘れられる。そう思ったのに……。
 
 そう言うと、今度はしゃくるように泣き出した。
 俺は見ていて堪らなくなり、カウンターの中から出ると、京子ちゃんの隣りに座り、そして彼女の背中をそっと撫でた。
 俺の手に、京子ちゃんのからだの震えが伝わってきた。
「京子ちゃん……」
 それだけ言うと、そのあと何て言ったらいいのか、言葉が見つからない。
「悟郎さん、私……、馬鹿だった。他の人に抱かれてしまったら、もう京平を待つこともできなくなるのに……私……、私、どうしたらいいのぉ?」
「京子ちゃん、……どうしても阿部さんじゃダメなのかい?」
「えぇ、抱かれてみてはっきり分かったの。私は阿部さんを愛することはできないって。身体が、というより、心がそう感じたの。もしかしたら魂なのかも知れない……」
「そうか……。でも、京平はたぶんもう、京子ちゃんのところへは帰っては来ないぜ。それでもいいのかぃ?」
「うん、それでもいいの。私が勝手に想っているのは自由だよね。私、たぶんずうーっと京平のことが好きだと思うけど、もう京平のことを待つのはやめるよ。そのためにも、阿部さんとのことを、正直に手紙に書いて出すことにするよ。京平との別れの手紙として……」
「そんなことして、本当に後悔しないのかぃ? こんなこと言うのは変だけど、阿部さんとのことは言わなければ誰にも分かりゃしないんだよ。もちろん俺も誰にも言わないし……」
「うぅん、誰かが知ってるとかよりも、京平を裏切った自分自身が許せないから……」
「そうかぁ……」
「悟郎さん、手紙書いたら見てくれる? 変なとこが無いかどうか……」
「ああ、でもなぁ……」
「お願い!」
「わかったよ。そこまで言うなら」
 俺はふと時計を見た。
「あ、京子ちゃん、そろそろ沙耶ちゃんが来るよ。さぁ、涙を拭いて」
「はい、悟郎さん。ありがとう、いつも話を聞いてくれてっ」
 そう言った京子ちゃんは、いじらしく、少し歪んだ笑顔を作って笑った。

 それから間もなく、沙耶ちゃんの元気な声が店内に響き、いつもの毎日がスタートした。
 俺は慌ててランチの準備に取り掛かり、沙耶ちゃんは京子ちゃんと女の子同士の会話を始めた。
 そしてその日も平穏に一日が流れていった。はずだったが……。