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茶房 クロッカス その3

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 次の日曜日の朝、まだ沙耶ちゃんが来る前に京子ちゃんがやって来た。
 俺はすぐにでも、先日の夜の、あの後のことを聞きたかったけど、京子ちゃんの気持ちを考えると聞けなかった。
「京子ちゃん、いらっしゃい」とだけ言うと、何も聞かずに紅茶の準備を始めた。
「悟郎さん、この前のことだけど……、聞いてくれる?」
 京子ちゃんが俯いたままでそっと言った。
「あぁ、……俺でいいのかぃ?」
「えぇ、悟郎さんに聞いてもらいたいの」
 そう言うと京子ちゃんは、あの日、店を出てからのことを話し始めた。

 私たち、ここを出てから二人で歩いて、駅向こうにあるホテルに行ったの。
 阿部さんは、私と一緒にホテルに行けることがよっぽど嬉しかったのか、ホテルに着くまでもずいぶんテンション高くて、何だか一人でずうーっと喋ってた。
 でも、その時の私は、京平との思い出が頭の中を駈け巡っていたから、彼の話に相づちだけは打っていたけど、実際のところ話は聞いてなかったの。だけど、そのことすら彼は気付いてないようだった。
 ホテルに着いてドアをくぐる時、思わず私、立ち止まってしまったの。
 でも、すかさず彼が私の背中を押して……。そして部屋に入る時には、彼が私の肩を抱くようにして……。
 部屋に入った私たちは、とりあえずソファーに座ったの。そしたら彼がそっと顔を近づけてきて、優しくキスされた。
 私から言い出したことだし、阿部さんが良い人なのは分かっているから、覚悟を決めて阿部さんに任せたの。
 でもやっぱり違ってた。
 京平とは違ってたの!
 
 ――そう言うと、いきなり京子ちゃんは泣き出してしまった。
 俺は慌てて手近にあったティッシュを渡した。本当はハンカチを渡すべきなんだけど、この前白いハンカチを京子ちゃんに渡してしまったので、もう無かった。と言うか、実際にはもう一枚、俺の大切な優子との思い出のハンカチがあったんだけど、これだけは、例え京子ちゃんでも使わせるわけにはいかなかった。京子ちゃんはティッシュで涙と鼻水を拭きながら、話を続けた。