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茶房 クロッカス その3

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 コーヒーを落としながら、ふと、あることに気が付いた。
 手紙には最後に書いた日付が記してあった。
 手紙を読み終わって泣いてる沙耶ちゃんの手から、奪うように手紙を取ると、食い入るようにその日付を見つめた。
《やはりそうだ! この前店に来て、カウンター席に座ってコーヒーを飲んで話したあの日は、この手紙を書いた日の数日後だった。手紙を書くのがやっとだったあの人が、そんな状態で俺の店まで来られるはずないじゃないか! ということは……、あの時の彼は……ヒャア〜〜!! 》
 そう思った途端、冷たい手が俺の背中をそうーっと撫でた。
「ギャーーーッ!!!」
「――もう、悟郎ちゃん、何よ! 私の方がびっくりするじゃない! 一体どうしたのよ?」
 見ると礼子さんだった。
「なんだ礼子さん! 来たなら来たで、声ぐらい掛けてくれよぉ」
「何言ってるの。何回も呼んだじゃない!」
「えっ? そう?」
「そう」
「キャハハ!!」
 沙耶ちゃんが、堪えていたものを一気に吐き出すように笑い出した。
「ん? ――そういうことか……」 〔頭掻きかき……〕
「ええ、そういうことよ」
 礼子さんは明らかに呆れ顔だった。
「――それより、どうしたの? 急に電話してきて、菊の花を……なんて」
「うん、実は……、礼子さんも知ってるだろう? いつも夕方四時頃に必ず来ていた不精髭の人のこと」
「あぁ、その人のことだったら以前、悟郎ちゃんから話に聞いたわよねぇ」
「うん、その人水無月さんて言うんだけど、……亡くなったんだ」
「えっ!? ……そうだったの? それで菊、なのね」
「ああ、彼が好きだった表の花壇が見える席に、その花を生けてくれないかぃ」
「えぇ、分かったわ」

 そうして、礼子さんが花を生けて供えたテーブルに、淹れたてのアメリカンコーヒーを置き、三人で手を合わせ、水無月さんの冥福を祈った。
 もしかしたら、今ここで、この席で、水無月さんはアメリカンを旨そうに飲んでいるのかも知れない。俺たちに見えてないだけで。ふとそんな考えが頭を過ぎった。

 その日は、思いがけないことが連続する日だったのかも知れない。
 夕方、沙耶ちゃんが帰って、そろそろ店じまいをと思っていた所へ、またしても思いがけない来客があった。哀しい思いを秘めた人だった。