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茶房 クロッカス その3

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 前田 悟郎 様

 前略 暑かった夏もようやく終わりのようですね。
 これからやっと少しだけ過ごしやすい季節になるというのに、私はその季節を過ごすことが難しい状態になってしまいました。
 この手紙がマスターの元へ届く頃には、おそらく私の魂は肉体を離れ、あちらの世界を旅していることでしょう。
 しかし私は何も恐れてはおりません。
 こちらの世界で、生あるギリギリの時まで、唯一、私にできることを精一杯やってきましたから……。
 しかし、そうすることができたのも、ひとえにマスターの言葉により、気付きを与えてもらったからなのです。
 一人の身寄りもいない私にとっては、生きることは孤独との戦いに他ならなかったのです。
 マスターと出会えて本当に良かった。自分の生きる価値を発見できたのですから。
 マスター、心から感謝しています。
 できることなら、マスターの淹れてくれたアメリカンをもう一杯だけでも飲みたかった。だがしかし、贅沢を言うと神様に叱られそうです。
 最後にこうして、マスターへの手紙を書き終えることができて、本当に良かった。
 これからは、許されるならあちらの世界から、マスターを見守らせて頂くことにしましょう。
                               さようなら。
                                       水無月 乱 

 俺は、彼からの手紙を読み終えると、その手紙をさっきから心配そうに俺の顔をじっと見つめていた沙耶ちゃんに渡し、少し考えた後、店の電話の受話器を手に取り、記憶している番号をダイヤルした。
 呼び出し音が数回鳴って、ようやく相手が出た。
「……あ、礼子さん俺だけど……」
「ああ、急で悪いんだけど、供養に使う菊を数本今すぐ持って来て欲しいんだけど……」
「――そうだなあ、やっぱり白だけでいいよ。あの人には、やはり白が相応しい気がするから……」
「――うん、そのことは後でちゃんと話しするから、じゃあ頼むよ」
 そう言って電話を切ると、花が届くまでの間にコーヒーを落とすことにした。
 彼が好きだったアメリカンを。最後まで飲みたいと言っていたアメリカンを……。