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茶房 クロッカス その3

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 その日は十月も半ばに入った頃だった。
 いつものように気持ちの良い風を切り、自転車を走らせて店に着いた。
 時間通りに店を開け、一通りの掃除を済ませていると沙耶ちゃんがやってきた。

「やぁ〜、沙耶ちゃんおはよう! 今日はいつもより早いんじゃないか?」
 そう声を掛けて沙耶ちゃんの顔を見ると、なんだかいつもに比べて表情が暗い。
《うん? 何かあったのかあ?》
「マスター、……」
「ん?」
「あのぅ……」
「何?」
「う〜ん、実は……」
「だから何? どうした?」
「――実はねぇ、昨日病院に行って来たんです」
「ん? どこか具合いでも悪いのかい?」
「あ、そうじゃなくて……、入院してた友達がもうすぐ退院するって言うんで、そのお見舞いに行って来たんですけど、そしたら水無月さんのベッドが無くなっていて、てっきり部屋が変わったのかと思ったんだけど……」
「うん、それで?」
「えぇ、それで友達に聞いたんです。『水無月さん、部屋変わっちゃったの?』って……」
「うん」
「――そしたら……、あっ、その友達って良くんて言って、私の幼なじみで塾の先生やってるんですけど……、その彼がいきなり私に一通の手紙を差し出したんで、『えっ?! 何? ラブレター?』ってふざけて聞いたら、彼が一言
『水無月さんから……』って言ったんです。私、意味がわからなくて……」
「……??」
 俺は何も言わず、沙耶ちゃんの次の言葉を待った。
 そうして、ようやく次の言葉を発した時、沙耶ちゃんの瞳には今にも零れそうな大粒の涙が光っていた。
「マスター、これ」と、言って一通の手紙をバッグから出すと俺に手渡し、
「水無月さんからの手紙」と言った。
 俺はどうしようもなく嫌な予感がしたけど、開かないわけにもいかず、ゆっくりと封を切った。
 綺麗に折り畳んだ真っ白な便箋には、幾分震えながら書いたのか、頼りなげな文字が綴られていた。