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茶房 クロッカス その3

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 その日のランチタイムは比較的暇で、準備したランチのための材料が余ってしまった。仕方ないので、いつもは賄い食で済ますんだけど、今日は特別に沙耶ちゃんと二人でお客さん用のランチを食べた。
「マスター、今日のパスタ美味しいですねっ」 
 と、沙耶ちゃんが嬉しそうに言う。
「当然だろ! 俺が作ってるんだぞっ」
「プププッ! そんなこと分ってますよぉー」
 今日のパスタは魚介類たっぷりパスタだった。とは言っても、魚介類は全部冷凍の食材なんだけどな……。
 夕方までにもそれほど客もなく、今日は特別に沙耶ちゃんにも早く上がってもらった。
 こんな日は珍しい。俺も今日は早く店じまいするかな。
 そう思っていたのに、沙耶ちゃんが帰った後に意外な人物が店にやってきた。
 カラ〜ン コロ〜ン
「いらっしゃ〜い」
 そう言いながら目を上げてドアのほうを見ると……。
「おお、水無月さん! 大丈夫ですか?  沙耶ちゃんから聞きましたよ。入院してるんですって? もしかして、退院したんですかっ?」
「いや、そうじゃないのですが、どうしてもマスターのアメリカンが飲みたくなってね。……ちょっと病院を抜け出してきました。あははは」
「あははは。まじですかっ?! それは嬉しいなぁー。さっ、掛けて下さいよ。いつもの席に」 
「いや、今日はカウンター席に座らせてもらいましょう。その方がマスターとお喋りがしやすいので……」
 そう言うと、水無月さんはカウンター席に着いた。
 俺はアメリカンコーヒーを淹れて、水無月さんの前に置いた。
「うーん、旨いっ」
 水無月さんは一口、口に含むとそう言って唸った。
「病院の食堂でもコーヒーは飲めるのですが、やはりここのとは違うな。コーヒーの香りがないんですよ」
 寂しそうにそう言うと、
「――また、毎日来たいなあー」
 遠くを見る目で水無月さんが言った。
「いつ頃退院できそうなんですか?」
「いや、なかなか難しいでしょうなぁ……」

 ――しばらく話をした後。
「もう帰らないといけないのです」
 そう言って水無月さんは帰って行った。もちろん病院へ。
 そう思っていたのだが……。信じられないようなことが後日分った。