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茶房 クロッカス その3

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 何だか妙に長かった九月も終わり、いよいよ秋本番の十月に入った。
 少し前までのあの暑さも一段落して、空は秋晴れで気持ちよく、過ごしやすい気候になった。
 朝いつもの時間に家を出て、自転車に乗って走っていても、もう汗ばむこともなく、通り過ぎる風が気持ちいい。
 その日は朝から礼子さんが花を換えに来てくれた。
 テーブルの花瓶の一つひとつに、今を盛りのコスモスが生けられていく。

「もうコスモスの時期なんだなぁ」
 独り言のように俺が呟くと、それを聞いていた礼子さんが、
「コスモスの花言葉って、悟郎ちゃん知ってる?」と、聞いた。
「いや、知らないなー。礼子さん知ってるなら教えてよ」
「あのね、コスモスの花言葉はねっ、少女の純真・真心なんていうのが一般的なのよ」
「ふぅーん、さすがに良く知ってるね」
「まあねぇ。一応花屋ですからぁ〜。うふふ」
「少女の純真・真心かぁ。今の少女ってどうなんだろ?」
「そうねぇ、今でもやっぱり純真な子はいると思うわよ。私たちの頃みたいに……」
「そうだろうか?」
「もちろんよ!」

 俺はふと、京子ちゃんのことを思い出した。
《そう言えば、先日会社の飲み会があるとか言ってたけど、今日辺りじゃないのかなぁ……。京子ちゃんどうするつもりなんだろうか……》

「悟郎ちゃん見てぇー、私のお腹。ずいぶん大きくなったでしょ?」
 突然礼子さんが自分のお腹を突き出すようにしてそう言った。
「ああ、今聞こうと思ってたんだよ。もちろん順調なんだよね? 少し前に淳ちゃんが来て、礼子さんがつわりで大変だとか言ってたけど、どうなんだい? その後は……」
「うーん、まだ完全には終わってなくて、やっぱりご飯の匂いとか嗅ぐと『おえっー!』ってなったりするのよ。だからその時はちょっと辛いなぁ」
「そうか、でも楽しみだよなー。俺にはもうそんな楽しみはないだろうし……」
「あら、そうとも限らないじゃない。若〜いお嫁さんをもらったらどうよ。ふふふ」
「礼子さん、それって俺を馬鹿にしてるだろ?」
 俺は上目遣いで礼子さんを見て言った。
「ふふふ、そんなことはないわよ。まだまだチャンスはあるって!」
「あははは…。チャンスかぁ、あるかなー?」
 二人で話しをしている所へ、いつも通りに元気な沙耶ちゃんがやってきた。
「おはようございまーす!」
「ああ、おはよう。今日も元気だな」
「沙耶ちゃんおはよう」
「あ、礼子さん来てたんですね。おはようございます。今日はコスモスか……、可愛いですよねっ。コスモスって」
「そうね、まるで沙耶ちゃんみたいよねっ」
 そう言うと、礼子さんは俺に向かってウインクをした。
「あははは、確かにそうかもな」
 俺が笑いながらそう言うと、沙耶ちゃんが、
「……うん??」と首を傾げて俺と礼子さんを見た。
「あははは……」
 俺と礼子さんは一緒になって笑った。
 不思議そうな顔をしている沙耶ちゃんに、コスモスの花言葉のことを話してやった。
「なあーんだ、そういうことなのか……」
 沙耶ちゃんはそう言うと、照れたように笑った。
 そして礼子さんは、コスモスの花を生け終わると、
「じゃあ、またねっ」と帰って行った。