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茶房 クロッカス その3

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 ようやくランチタイムも終わり、いつもののんびりタイムに入った。
 俺と沙耶ちゃんはゆったりと、俺の好きなフォークを聞いていた。
 今日の選曲はガロの『学生街の喫茶店』だった。

 君とよくこの店に来たものさ
 訳もなくお茶を飲み話したよ
 学生で賑やかなこの店の
 片隅で聴いていたボブ・ディラン
 あの時の歌は聴こえない
 人の姿も変わったよ
 時は流れた

 あの頃は愛だとは知らないで
 サヨナラも言わないで
 別れたよ君と……

 沙耶ちゃんの生まれる前の歌なのに、なぜか彼女は小刻みに頭を振ってリズムを取っている。俺にとっては懐かしい曲だ。

 君とよくこの店に来たものさ
 訳もなくお茶を飲み話したよ
 窓の外街路樹が美しい
 ドアを開け君が来る気がするよ
 あの時は道に枯葉が
 音もたてずに舞っていた
 時は流れた

 あの頃は愛だとは知らないで
 サヨナラも言わないで
 別れたよ君と 君と……

 ちょうどこの曲が流行った頃、高校では喫茶店への出入りは禁止されていたけど、俺と優子は時々デートの途中で立ち寄って、一緒にコーヒーを飲みながら、つまらないことやどうでもいいようなことをいつまでもおしゃべりしていた。
 外を歩く時も、手をつないで歩くなんてことはできなかったけど、あの頃は本当に楽しかったなぁー。
 思えばあの時の思い出が、俺にこの店をやらせたのかも知れない。今にして思えば、確かにそんな気がしてくる。
 あの頃の優子との思い出。その一つひとつが、キラキラと今でも輝いている。
 俺たちがよく行った店も、そうだ! ドアはこの店のドアのようにカウベルが付いていた。どうして今まで思い出さなかったんだろう。
 そう、俺の頭の中ではきっと、自分の意識とは別の所で、優子を求める気持ちが働いていたのかも知れない。だからこの店を見つけた時、妙に惹かれて、そして買ってしまったのかも。
 もしかしたら優子が気付いて来てくれるかもしれない。そんな想いでクロッカスの花を植えた。今まで一度だって花を植えたことなんてないのに……。
 植え方も分らなくて……。あの時が、礼子さんや淳ちゃんとの初めての出会いだったなぁ。
 毎年綺麗にクロッカスは咲いてくれているのに、優子はまだ気付いてはくれていないのだろう。いや、もしかしたら一生気が付いてはくれないかも知れないが……。
 俺は一体何を望んでいるんだろう……。
 優子はもう結婚しているというのに……。
 俺の思考回路はどんどん深いところへ入って行きつつあった。