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茶房 クロッカス その3

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 俺がランチの下準備を終えていつもの定位置に戻った時、ちょうど阿部さんとの話が一段落したところだったらしく、
「じゃあ良かったじゃない! その阿部さんて人と知り合えて」
 と、沙耶ちゃんが言っていた。
「まぁそうなんですけどね……」
 そう言うと、京子ちゃんは俺の顔を意味ありげにじーっと見た。
「京子ちゃん、阿部さんのことなら、俺もその方がいいと思うよ。アイツからはやっぱり連絡ないんだろ?」
「えぇ、そうなんです。だから私も考えているんです。今度誘われたら……って……」
「そうなのか。……アイツのこと忘れられるのかぃ?」
「えぇ、だからそのためにもって……」
「そうかあ……」
「近い内に会社の飲み会があるんです。私も阿部さんも出席することになってて、もしかしたら、その時……」
「そうか。もし本当にその時が来たら、一度ここへ連れておいでっ。そしたら俺が、京子ちゃんに相応しい男かどうかきっちり見定めてやるから」
「はい、そうしますね。悟郎さん、ありがとう」
 沙耶ちゃんには俺たちの話の内容が分からないからなのだろう。二人の顔を見る視線が、忙しく行ったり来たりしていた。
 そして京子ちゃんがランチタイムが近付いてきたのを潮に帰って行くと、しびれを切らしたかのように聞いてきた。
「ねぇマスター、さっきの話に出てきたアイツって、一体誰のことなんですかぁ?」
「やっぱりな、そうくると思ったよ!」
 俺は、沙耶ちゃんのこの質問からはまず逃げられないだろうと覚悟を決めて、ランチのお客さんが来る前にと思って、ザーッと流すようにあらましを話して聞かせたのだった。
「ふぅーん、そんな人がいたんだあ、そんなことがあったんだあ」
 と、何度も何度も繰り返し呟きながら、最後には
「じゃあ今って、もしかして辛い状況ってことなのかなぁ、もっと楽しい状態なのかと思ってたのに。……人を好きになると結構色々あるからなぁ……」
 と、目下彼氏いない暦更新中の沙耶ちゃんは、暢気に一人ごちていた。