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茶房 クロッカス その3

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 ――ふと見ると優子が立っていた。
 その姿は高校生ではなく、大人の女になっていた。それなのに俺は、その女が優子だと知っていた。
 優子は足元に小さい女の子を連れていて、繋いだ手が羨ましいような気がした。
「優子……」
 俺が呼ぼうとしたその時、優子が誰かに手を振った。
 俺は優子の視線の先へ目をやった。
 そこには、恰幅のいい男性が一人立っていた。
 そして、その男性も優子に優しく手を振っていた。
「ああ……」
 俺はその一瞬にすべてを察してしまった。
「ゆ う こ……」
 優子は三人で楽しそうに、俺から見えない遠くへ行ってしまった。
 夢から覚めた時、俺の頬は冷たく濡れていた。
 雨が降ったのか? そんなはずがないことは自分が一番よく知っていた。
 ただ、自分の気持ちを認めたくなかっただけだった。
 俺は立ち上がり、また歩き出した。そして、一つの花壇の前で立ち止まった。
 そこには薄紅色のコスモスの花が優しい風に揺れていた。
 この花壇にはあの時、満開のクロッカスが咲いていた。
 優子がそれを見て、俺にクロッカスの花言葉を教えてくれた。そして、二人で大切にしようと言って約束した花言葉。それは………。
 クロッカスの花言葉は、
「あなたを待っています・私を信じてください・あなたを信じながらも心配です・信頼・裏切らないで・青春の喜び・楽しみ・切望」なのよ。
 だから二人で、お互いを大切にして信じあい、決して裏切らないように、そして一緒に楽しい青春を過ごしましょう。想い出を沢山作ってそれを未来につないで行きましょう。
 君はそう言ったよね。そして俺も、そうしよう! と約束したんだ。
 必ず君を大切にするよ! そう言ったんだ。それなのに……。
 優子、ごめん。
 もうちゃんと謝ることもできないんだね。
 俺は、思い出すとどうしようもなく辛くなり、家に帰ることにした。
 桜の木は以前よりどっしりと根を張り、自分というものを主張していた。
 そこには、それまでの木の歴史があった。本当なら、俺たちの愛情もどっしりと根を張っているはずだったのに、俺たちも歴史を作るはずだったのに、あの時点では……。
 一体どこで狂ってしまったんだろう……。