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茶房 クロッカス その3

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「実はね……私、ママになるの」
「マ、マ?!」
 沙耶ちゃんと俺が同時に声を上げた。
「そうなの」
 それだけ言うと礼子さんは、照れくさそうににっこり笑った。
「ママって……それってお母さんになるってこと?」
 俺がそう聞くと、すかさず沙耶ちゃんが、
「マスター、何バカなこと言ってるんですか? そうに決まってるじゃないですか! もぅー!」
 呆れたようにそう言うと、今度は礼子さんに向かって、
「おめでとうございます! 良かったですねぇ、ホントに」 
 と、満面の笑みを浮かべて言った。
「ありがとう、沙耶ちゃん。私、本当はもう諦めていたの。(ちょっと下を向き、また顔を上げ)――だから尚更嬉しくって……」
 そう言うと礼子さんの頬に涙の雫がツツーっと流れた。
「そうか、そうなんだ。赤ちゃんができたんだ!(ううっ)良かった! 良かったね礼子さん。俺も嬉しい」
 思わずもらい泣きしてしまって、そのあとの言葉が言えなくなった。
 見ると沙耶ちゃんも、顔は笑っているのに瞳からは涙が……。
 そこからしばし涙の合唱大会になった。
 
 ――少ししてようやく感涙が治まった俺は、礼子さんに尋ねた。
「で、いつ生まれるんだぃ?」
「ええ、今2ヶ月だから来年の4月頃の予定よ」
「淳ちゃんもさぞかし喜んでるんだろうなぁ」
「ええもう、そりゃー大喜びよ! でも最初はやっぱり信じられなかったみたいよ。――私が何度か具合悪くて吐いたりしてたから、もうてっきり胃でも悪いんじゃないかと思って、淳ちゃんが『病院に行って診てもらった方がいいよ』って言うから、私も仕方なく行ったのよ。でもまさか妊娠してるなんて思ってもみなかったわ」
「でも礼子さんの歳だと高年齢出産とかいうのになるんじゃないのかぃ? 大丈夫かー?」
「そうなのよ。私もそれがちょっと心配なのよねぇ……」
「重い物とか持ったらダメらしいですよ〜」と沙耶ちゃんが知ったようなことを言う。
「ええ、気を付けてるわ。淳ちゃんたら一緒にお買い物に行くと、スーパーの小さい袋さえ持たせてくれないのよ。うふふ……」
 礼子さんはいかにも幸せそうに笑った。
「まあ、礼子さんたら惚気ちゃって! ご馳走様」
 そう言った沙耶ちゃんも楽しそうに笑った。
「もう、熱いなーただでさえ暑いのに、あぁ熱ーーい!」
 俺がそう言って手で扇ぐ振りをすると、みんなが一斉に笑った。

 赤ちゃんなんて俺には縁がないし、この先もないかも知れないけど、赤ん坊が生まれるってことは、こんなにも周りの人を幸せにするものだと初めて知った。
 俺は一人っ子だから甥も姪もいないし、出産なんてまるっきり縁のないことだったから……。
 その後もしばらく、生まれてくる赤ん坊のことで話が弾み、
「あらっ、もうこんな時間。帰らなきゃ、淳ちゃんが心配してるわ」
 礼子さんはそう言い残して、慌てて帰って行った。
「――でもなんだなぁ、沙耶ちゃん。赤ちゃんて可愛いんだろうなぁ?」
「そりゃあそうですよ。何の邪心もないですもんね。マスターと違って! うふふふ……」
「沙耶ちゃん、ずいぶんなことを言ってくれるじゃないか! ま、当たらずとも遠からずだけどねっ。あははは……」