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茶房 クロッカス その3

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 しばらく遺体の傍でぼうーっと立っている俺を見て、刑事さんが思い余ったのか口を開いてこう言った。
「ご遺体のご自宅への搬送は、病院と相談の上、こちらで手配しますので何もご心配にはおよびません。今後のことですが……」
 刑事さんが話す今後の段取りを、一通りぼうーっとした頭で聞いていた。
 全ての手続きが終わり、自宅に戻ってきた遺体を、床の間に敷いた布団に二人並べて横たえた。
 間もなく連絡しておいた葬儀社の人たちがやって来て、二人に死出の旅立ちの支度を整えさせると、タイミングよく表れた坊主によって、通夜と葬儀が滞りなく執り行われた。
 弔問客の相手やもてなしの用意などは、町内の役員さんや隣近所の奥さん連中が来て、勝手にやってくれていた。
 俺は喪服に身を包んで、線香をあげてくれる人々に、機械仕掛けの人形のようにただ繰り返し頭を下げるだけだった。
 葬儀が終わってもしばらくは、俺は店も開けずに自宅に引き籠もっていた。

 ちょうど一週間経った頃、寝ている俺の夢に親父とお袋が表れた。
「悟郎、しっかりしなさい。私たちはいつだってお前を見てますよ」
 それだけ言うとさっさと消えてしまった。
 俺は翌朝、夢の中の両親の声を思い出し
《そうだ、このままじゃいけないんだ》と気付いて店を開けた。

 久々に店を開けたせいで、それを知った常連さんたちが次々と心配して訪ねて来てくれた。
 心配して来てくれたみんな一人ひとりに、両親が亡くなったいきさつと、今まで店を閉めていた事情を説明しなくちゃならなくて、それはとても面倒だったし、また同時に悲しい記憶が甦ることでもあったから辛い作業ではあった。
 しかし、みんなの心からの励ましの声を何度も聞かされるに連れ、俺の中には感謝の気持ちが沸き上がってきた。
《こんな俺のことを、みんな本当に親身になって心配してくれている。ありがたいことだ。人は人に支えられることで生きて行けるとよく言われるが、本当にそうだなぁ》と、しみじみ思ったのだった。