茶房 クロッカス その3
店の前まで行くと、相変わらずピンクの派手な文字の看板が俺たちに、ピカピカ光って手招きしてくれていた。
《開いてて良かった!! ……どっかのコンビニの宣伝みたいだ》
と、自分で思って声を出さずに笑った。
相変わらず黒い重厚感漂うドアを開けて入ると、
「いらっしゃ〜い」
と声を掛けてきたママが、俺の姿を見て、
「あぁ、この前の……。また来てくれたのねっ」と、嬉しそうな声を上げた。
「ああ、今日は連れがいるんだ。いいかぃ?」と、俺が言うと、
「もちろんよ! さっ、どうぞぉー」と、俺と夏季さんを席へと案内した。
ママは、暖かいお絞りを手渡しながら、
「――そう言えば、確かこの前はマスター、彼女いないとか言ってなかったぁ?」
そう言うと、俺と夏季さんの顔を見比べるようにして、
「彼女ができたのね。良かったじゃないっ! おめでとう」
と、意味深な笑みを浮かべた。
「もう、ママ、いやだなぁー。違うよ。彼女は彼女じゃないよ! あれっ?!」
俺は自分で言った言葉に笑ってしまった。
「あっはっはっははは……」
いい加減笑った後で、
「あー、ごめん。彼女は夏季さん。俺がいつも弁当を買いに行く店で働いていて、うちの店のお客さんでもあるんだよ。でも、俺の彼女じゃないから。あははは」
「あら、そうなの?」
「そうなんです。夏季って言います。宜しく」と、夏季さんが言い、
「――でも、私はマスターの彼女になれたら光栄なんだけど……」
と、囁くように続けた。
俺は聞こえてはいたけど、何も言えなかった。
こう見えても、〔どう見えて?〕俺は結構シャイなんだ。
でも、ママは違ってた。
「あらぁ〜、じゃあ彼女になっちゃえばっ?」
その言葉に俺は、思わず夏季さんの顔を見た。彼女はまた一段と顔を赤くして、少し俯いた。
「――まあ、飲もうよ」
俺はそう言うと、夏季さんに酒を勧めた。
彼女はレモンサワーを頼み、俺は焼酎の水割りにした。
どのくらい飲んだのか、俺たちはほろ酔い気分で一緒にカラオケを歌ったりした。
作品名:茶房 クロッカス その3 作家名:ゆうか♪