茶房 クロッカス その3
その日から何となく主人の態度が変わってきて、私も少しは《変だなぁ〜?》と思わなくはなかったけど、実際に主人から言われるまでは、はっきりとは分からなかったの。
そしてある日、主人がいきなり言ったの。
「夏季、僕はもうこれ以上耐えられないよ」
「え……?」
「君が、僕以外の誰かを想っているなんて……」
「……あなた、一体何を言ってるの?」
「いいんだよ。もう何も言わなくても……。もう分かっているんだから……」
「あなた……」
「僕は今までずうーーっと君を愛してきた。知り合った時から変わらず愛してきたつもりだ。でも君はそうじゃなかった。君は僕を愛してはいなかったんだ。最初から……」
「あなた、一体どうしちゃったの? そんなことないわよ! 私だってあなたのこと……」
「いいんだ。分かってるんだから」
主人はもう、私の言葉を最後まで聞こうともせずに、悲しそうな顔で私を見た。
私が何も言えずにいると、思い出すように彼が言ったの。
「君はあの日、嘘をついたね。僕に」
「……?」
「僕が帰れなかったあの日、君に「食事をどうした?」と聞いただろ? あの時本当は、君は、誰かは知らないが男性と二人っきりで、ホテルで食事をしていたはずだ。僕は知人からそれを聞いて驚いたよ。その人は君のことも良く知っている人だから、間違えようがないんだ。それなのに……君は……」
「あっ!」
「あの時、僕がどれほどショックだったか、君に分かるかい? だって、今まで一度だってそんなことはなかったし、まして君が嘘をついてまで、そのことを隠そうとするなんて……」
「――僕はそれからずうーっと、辛かったよ。でもやっと少し落着いて考えられるようになったんだ」
「………」
「――君は元々僕のことを愛してはいなかった。だから、僕は君の本当の愛が欲しくて、いつだって精一杯君を愛してきた。だけど……その結果がこれだ。僕はもう、これ以上君を愛していく自信がないんだ。別れよう」
「あなた! それは誤解よっ」
私はびっくりして、主人に弁明しようとしたわ。
でも主人はもう何も聞いてはくれなかった。
それからしばらくして、私は家を出た。
実際のところ私も、主人にそう言われてからじっくり考えてみたの。考えてみれば、確かに主人の言う通りだったかも知れない。そう思ったの。
私は、主人の愛に甘えていただけだったのかも……。
主人は私を本当に大切にしてくれたけど、私は主人に対して、大切に思う気持ちが欠けていたんだわ。だから主人を苦しめてしまった。
それでも何とか娘のために、今でも離婚だけはしないでいてくれてるの。だから結局別居生活。それも仕方ないのよね、私が悪いんだから……。
作品名:茶房 クロッカス その3 作家名:ゆうか♪