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茶房 クロッカス その3

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《夏季さんは笑うと本当に可愛いのに、どうして笑ってない時は表情が暗いんだろう?》

「夏季さん、夏季さんて今おいくつなんですか?」
 いきなり沙耶ちゃんが聞いた。
「おいおい、いきなりそんなこと聞いたら失礼じゃないか!」
 俺が慌てて沙耶ちゃんにそう言うと、
「あ、いいんですよ、マスター。私、年なんて気にしてないですから……」
「――それより沙耶ちゃん(?)て言うのね。私いくつに見える?」
「あ、申し遅れました。私、大谷沙耶と言います。宜しくお願いしま〜す。で、夏季さんの年ねぇ、うーん、四十代前半位かな? どうぉ? 違いますぅ?」
「近いわ! すごいっ。よく分かったわねっ」
「へへへっ、ただの感ですよ」と、沙耶ちゃんは照れ笑いをした。
「じゃあ、俺とあんまり違わないんだ。ちなみに旦那さんてどんな人?」
「えっ、どんなって……、普通の人ですよ」と言うと、夏季さんは、
「私のことより、マスターの奥さんてどんな人なんですかぁ? きっと素敵な人なんでしょうねえ」と、言った。
「あぁ、夏季さん、マスターはこう見えて独身なんですよぉ。おまけに恋人もいないし! ……ふふふ」と、沙耶ちゃんが余計なことを言う。
「沙耶ちゃん、こう見えてって、どう見えてなんだよー。そりゃあ確かに恋人はいないけどさあー」
 俺が、少し膨れっ面でそう言うと、
「ウフフ……、面白い〜。二人の会話聞いてると、まるで漫才見ているみたいだわ。ウフフ……」
「いやぁ参ったなー」(ニヤニヤ)
「マスターが独身なら私……」
 そこまで言うと夏季さんは急に口をつぐんだ。
「えっ? 俺が独身なら、何?」
 俺がそう聞くと、なぜか急に頬を染めて、
「いえ、何でもないんです」と、恥ずかしそうに夏季さんはうつむき加減で言った。
 ふと見ると、なぜか沙耶ちゃんが、やたらニヤニヤと俺と夏季さんの顔を見比べている。
《一体どうしたって言うんだよー??》
「夏季さん、マスターはね、ずうーっと以前に好きな人がいて、その人を今でも忘れられないらしいのよっ」
 そう言うと沙耶ちゃんは、俺にウィンクをした。
《何なんだあー? 意味わかんないなー》
「ふぅーん、そうなんですかぁ〜? その人って幸せな人ですね。どんな人なんですかぁ?」
「いゃーどんなって……、もう大昔のことだし、高校の同級生だったんだよ。とっても優しい女性〔ひと〕でした。でも俺が裏切ってしまって……」
「えっ?! 裏切ったんですか? それは……やっぱり……」
「でも、すぐ後で気が付いたんです。俺が馬鹿だったって。でも手遅れでした。その人は結婚してしまったんです。今頃はきっと幸せに暮らしてると思いますよ。ま、これも運命なんだろうから、仕方ないですよ」
《口ではそう言っても、実際の俺は、やはり忘れられないのだが、……優子を》
「そうなんですか。本当に幸せに暮らしていらっしゃるといいですね。結婚したからって、みんながみんな幸せってわけでもないから……」
「うん? 夏季さん、もしかして、こんな言い方変だけど……今、あんまり幸せじゃないのかぃ?」
「………」
「あっ、答えたくなかったらいいんだ。何も言わなくて……。ごめん、変なこと聞いて……」
「いいえ、いいの。良かったら聞いてくれますか? 私たち夫婦のこと」
「えっ? 俺が聞いてもいいのかぃ?」
「ええ。何だかマスターになら安心して話せそうな気がするから……」
「あのぉー、私もここにいるんですけどぉ……」 
 と、沙耶ちゃんが遠慮がちに口を挟んだ。
「あ、独身の沙耶ちゃんにこんなこと言うと、結婚に失望しちゃうんじゃないかしら?」
「あのうー、俺も独身ですがっ?」
「あっ、そうでしたねっ。ウフフフフ……」