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茶房 クロッカス その3

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 その日の夜、店を閉めてから自宅へ帰る途中で、沙耶ちゃんが言っていたその弁当屋へ寄ってみた。
 メニューが多くて、俺はどれにしようか迷っていた。
《沙耶ちゃんはハンバーグ弁当が美味しかったと言っていたから、それにするか……。それとも、かつ弁当も旨そうだし、すきやき弁当も魅力だなぁ……。う〜〜〜ん、どうする??》
 いつも自宅では大した物を食べてないので、どうせ買うならしっかり栄養が摂れそうな物にしたかった。

「お客さん、迷ってるんですか?」
 突然声を掛けられその方を見ると、店の従業員さんがしびれを切らしたのか、俺の顔をじーっと見ていた。
「あ〜すいません。どれにしようか迷っちゃって……。あ、でもすぐ決めますから」
 俺はそう言うと、またメニューを睨んだ。
「お客さん、迷っているならミックス弁当にしたらどうですか? これなら色々入ってるから、栄養バランスもいいですよ」
「はぁ、なるほど。……それもそうだなぁ。じゃあそれにするかな」
「ありがとうございます。じゃあミックス弁当一つでいいですか?」
「ああ、それでお願いします」
「かしこまりました。ではできるまで少し、そちらの椅子に掛けてお待ち下さい」
 俺はその人が指した椅子に腰掛けて待っていた。

 少しすると、奥から、
「なつきさん、ミックスできたよー」と、その人を呼ぶ声がして、
「はぁーい」と、その人が応え、奥から弁当をバトンタッチされると、手際よく包装していた。
 待つほどのこともなく、
「お客さん、お待たせしました。ミックス弁当できましたよ」 
 と、その人が呼んだ。
 俺は立ち上がってレジのそばへ行き、弁当を受け取ると料金を払って、
「ありがとう、なつきさん」と、礼を言った。
 彼女はびっくりしたような顔をして、
「どうして私の名前を?」と、聞いた。
「えっ? だってさっき奥の人がなつきさんって……」
「あっ、あぁ、そうでしたね。うふふ、ごめんなさい。変なこと言って……」

 なつきさんは、一見すると何だか暗い影を背負っているように見えるが、笑うと意外なほど可愛い顔をしていた。
《年は俺より少し上くらいだろうか? 薬指に指輪をしてるところを見ると結婚はしているらしい。まぁ当然か、その年なら……》と、勝手に想像していた。
 俺はミックス弁当を買うと、意気揚々と自転車に乗って自宅へ帰った。