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茶房 クロッカス その3

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「――水無月さん、何でこんな所にいるんですか?」
「あれっ、沙耶ちゃんじゃないか。どうしてここに?」
「もう、水無月さんたら……。聞いてるのは私が先ですっ」
 と、私が笑って言うと、
「あぁ、ごめん、ごめん。実は骨折してしまってね。ついでに持病の調子も良くなくって、入院するように言われちゃったんだよ。マスターは元気かい?」
「ええ、マスターは相変わらずですよ。ふふふ……」
「そうか。――マスターの入れてくれるアメリカンが飲みたいなぁ。今はあまり動けないから、コーヒーを飲みに行くこもできないんだよ」
「そうなんですか、でもこの機会に身体をちゃーんと治して下さいネ」
「あ、そうか。沙耶ちゃんには言ってなかったね。私の病気はもう治ることはないんだよ。残念だけどね」
「えーーっ!? そうなんですか?」
「あぁ、マスターには以前話したけどね、そのせいで私は以前は何をする気力も失くしてしまって、ただ死ねないから生きている。そんな状態だったんだよ。でも、マスターと話して少し考えが変わってね。私にできることなんて限られてるけど、今は、苦しい人や辛い人を励ませるような作品を書くことに力を注いでるんだよ。それが唯一、こんな私が人のためにできることだと思うからね。これまで私も、色んな人に助けられてここまで来れたんだ。少しでも恩返ししてから死のうと思ってるんだよ」
「そんな……死ぬなんて…そんな……」
「いいんだよ。死ぬことも、今はそんなに怖いとは思ってはいないから。だってそうでしょ? 人間として生まれてきた時点で、すでにいつかは死ぬことが決まっているんだから……。多少の早い遅いはあったにしてもねっ」
「でも……」
「だからこうして入院していても、ベッドの上で書いているんだよ」
「そうなんですか……。じゃあマスターにもそう伝えときますねっ」
「あぁ、是非宜しく伝えて下さい」

「――そう言って水無月さんとは別れたんです」
 沙耶ちゃんが水無月さんとの会話を思い出しながら話してくれた。
「そうか……」
 俺は言葉にはしなかったが、水無月さんが快復してくれることを心底祈っていた。