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てっしゅう
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深淵「最上の愛」 最終章 残されたもの

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「それは解りませんが、多分金沢ではやらへんと思いますわ」
「どうして?」
「目に付きますから。ご両親も居られるようですし、車で移動するんでしたらあんまりすきが無いですから」
「じゃあどこで?」
「帰り道か、家に着いてからでしょう」
「しばらく帰らないほうがいいのかしら?」
「出来ればご両親には帰って貰って、あなたたちは遠くへ行かれたほうが安全だと思います。そのこと伝えたかったので。それと、戸村に後から電話したいので掛けてもらえませんか?」
「忠告ありがとう。なんか変ね。この間まであなたを逮捕する側だったのに、いまは助けて貰ってる側に居るなんて」
「まあ、そういう運命だったのでしょう」
「運命?じゃあこれからの私と戸村の運命は?」
「さあ、困りましたね。小野田のことは心配しなくて良いように私がしますから、任せてください」
「水島さん、私たちのために危険なことはなさらないで。戸村と私は何とか身を隠してでもやってゆくから」
「いいんですよ。戸村は両親を亡くした可哀そうな奴です。絵美さんとの出逢いで幸せになろうとしているんです。応援させてください。俺には家族は居ません。悲しむものが居ないから大丈夫です」

水島の決心が絵美には見えていた。出所した戸村と4人で加賀温泉のホテルに入った絵美は水島からのメッセージを伝えた。
「絵美、電話貸してくれ」
「両親が聞くといけないから、お風呂に入っている間に掛けて」
「ああ、そうする。俺は一緒には入れないから」
「そうね。じゃあ行って来るから」

一人で部屋に残った翔太は水島に電話をした。
「今出てきました。やっぱり、こっちは良いですね。今日はこちらに来ているんでしょう?」
「戸村か、良かったな。おめでとう。そうやねん。小野田が居るかも知れんと考えたけど、どうやらそっちへは行っとらんみたいや。東京の自宅辺りに隠れとるかも知れんな」
「そうですか。恨んでいるんですね。仕方ないだろけど、自分の身勝手より組のこと考えればいいのに」

「そんなことする奴やったら、もっと立派な組になってるわ。それより、絵美さんには話したけど、東京に帰らんと小松空港から乗り継いで北海道にでも行ったらどうや?しばらく向こうで隠れていてくれたら、その間に俺が小野田を処分するから」
「何言われるんですか!そんな危険なことしないで下さい。俺と絵美は何とかしのぎますから大丈夫です。お金も何とか都合つけますし」
「ええねん。気にするな。俺も小野田のことけりつけたら足洗って出直すつもりや。10年以上はくさい飯食わなあかんけど、それですっきりさせて人生やり直すわ」
「本気で言ってるんですか?山中さん許しませんよ」
「そんなことはない。組は若いもんに任せなやってゆかれへん。交代時期や。目の上のコブをとって引退するだけや。難しいことなんかないんや」
「小野田も警戒しているでしょうから、水島さんのことが心配です。無理はしないで下さい。今夜にでも会いませんか?ホテルまで来てください。バーで待ってますから」
「迷惑やろ?俺なんか」
「何言ってるんですか。戸村と水島で会いましょうよ」
「そうか、そうやな。ホテルに9時に行くわ」
「はい、楽しみに待っています。宿泊はどうしますか?」
「駅前のホテルに部屋は取ってあるから心配するな。タクシーで帰るから」
「結構ありますよ。金沢まで」
「ええねん。夜のドライブや」

風呂から戻ってきた絵美と両親に何事も無かったように笑顔で「お帰り!」と声を掛けた。
「いいお湯だったぞ、翔太くん。きみは入らないのか?」
「そうですか。入りたいんですけど、大浴場はちょっと」
「そうか、残念だな。家族風呂があったからフロントに聞いてみて絵美と入ってきたらどうだ?」
「本当ですか?」
「夫婦だろう。構わないさ」
「お義父さん、俺みたいな奴に絵美さんをありがとうございます」
「翔太くん、子供の頃からずっと仲良しだったじゃないか。キミほど安心できる男性は居ないんだよ」
「はい嬉しいです」
「勤めを終えて出てきたんだ。模範囚だったと聞いたよ。今までのことが全部清算出来た訳ではないが、今日からは一般人として生きて行けるようになったんだ。遠慮はいらないよ」
「きっと、絵美さんを幸せにします。約束します」

食事を終えて、両親は車の疲れから早く床に入った。翔太は絵美に耳打ちして一階のバーに下りて行った。

「水島さん!」
「戸村!」
二人は手をしっかりと握り合った。

「電話で言ったことは本当ですか?」
「引退するって言うことか?」
「そうです」
「そのつもりだよ。お前と絵美さんの事見て感動したんや。絵美さんは自分の地位と名誉を捨ててお前を選んだ。そしてお前の命の安全を身を挺して俺に頼みに来た。俺は、自分がそれほどまでに愛されるだろうかと嫉妬すらした。せめて、普通に一人の女を愛せることが出来ればそれで死ねるって、思ったんや」
「水島さん、その時が来たら応援させてください。今は何も出来ませんがそれまでにきっとある程度仕事やれるようにしていますから」
「そうだな、頼むか・・・一度ぐらい世話になるか、ハハハ」
「何度でも構いませんよ。俺の人生は水島さんと歩いてきたようなもんですから」
「ああ、そういえば、初めて女とやったときのこと覚えているか?」
「はい、それは・・・無しにしてください」
「いや、話すで。おまえ緊張して大きくならなかったやろう?」
「ええ、そうでしたね。若いのにダメなの?って言われましたから」
「なんて返事したんやった?」
「好きな人がいるから・・・って言いました」
「怒っとったなあ、バカにされたとか言って。そんな純情なところが可愛いって感じたんや。俺が守って行かなあかんって」
「恩にきています。両親を亡くしたショックと絵美と別れることの両方で放心状態になっていましたからね。女を抱くことなんかしたいと思いませんでした」
「いまはどうや?絵美さんと仲良くやれてるのか?」
「はい、それはもう・・・いや、お恥ずかしい」
「なに赤い顔してるねん。ええ歳して・・・ええな、ずっと仲良くするんやで」

絵美がそっと様子を見にバーにやってきた。
「絵美さん、もう話しだいぶしたから、一緒にどうや?」
「水島さん、あなたのことが心配です」
「大丈夫や、めったなことで死んだりはせえへんよ」

タクシーに乗って金沢まで戻っていった水島の後姿には命を捨てる覚悟が戸村には見えた。

「組長、戸村の奴家に戻ってきませんよ。今日でもう一週間ですが、両親は居りますけど二人の姿は見当たりませんわ」
「そうか・・・逃げられたな。何で知ってたんやろお前らが見張っていることを」
「さあ、誰にも言うてへんし、解らんと思いますけど。勘が働いたんとちゃいますか」
「勘?誰か入れ知恵しよったな。誰やろ」
「水島しか居よりまへんやろ」
「水島か・・・そうやな。厄介なやっちゃなあ」
「組長、戻って水島やりましょか?」
「山中組を相手に回すことになるで、出来へんやろ」
「鉄砲玉に行かせて、終わったら自首させましょ」
「そうか、その手でやるか」
「今から戻りますさかいに」