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てっしゅう
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深淵「最上の愛」 最終章 残されたもの

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「そうですか。おめでとうございます」
「お前は堅気やろう。褒めたらあかんがな」
「そうですけど、次は組長ですね。神戸が懐かしいですねえ」
「そうやろ。けど出所しても神戸に来たらあかんで。小野田の奴が不審な動きしとるさかいに」
「小野田が恨んでいるんでしょうね。そうでしたか、知らせて頂いてありがとうございます」
「ほんまに気いつけや、それしか言われへんけど」

水島はその後に続けて、「出所したときに鉄砲玉が来るかも知れんから、家に帰るまでうちの若いもんに護衛させようか」と本当は言いたかったが、ここでそれは言えなかった。絵美が現役だったなら何の心配も無かったが今は銃を持ってないから万が一の時には二人ともやられてしまうと心配だった。

水島が帰っていって、翔太は少し考えさせられた。自分の身の安全を心配してくれたことよりも、絵美の安全を考えないといけないと思っていた。どんなことをしても守る、そう強く自分に言い聞かせるしか方法は無かった。

12月24日、二人の結婚記念日に絵美は面会に訪れていた。
「もう直ぐね、三月が待ち遠しいわ」
「絵美、俺もだ。でも、心配事がある」
「何?」
「水島さんが教えてくれたんだ。小野田が俺を狙っているって」
「そんな!・・・どうするの?」
「お前に怪我をさせたくないから、出所日は俺一人で家に帰るよ。悪いけど金沢から東京までの切符を買っておいてくれないか?」
「ダメよそんなこと。父に頼んで一緒に車で迎えに来るから」
「お父さん、警察官だろう?そんな事頼めないよ」
「あなたの義父でもあるのよ。何遠慮してるの」
「義父?・・・そうか、そうだな」
「何もかも、絵美に世話かけるな・・・すまない」
「ううん、ずっと翔太と一緒に過ごしてきたのよ。あんなことがあったけど、運命は私たちを強く結びつけたの。これからもよ、死ぬまでもう離れないの」
「絵美・・・俺はやり直して今度こそお前を幸せにする。辛い思いをさせるかもしれないけど、子供も作ろう・・・父親になりたい」
「そうね。子供かあ・・・両親も孫が見たいって言ってるから、早く作りましょう」
「出所したその日に頑張ろう・・・」

ゴホン!と担当官は咳払いをした。くすっと笑って、絵美はその顔を見た。またか、と言う眼差しで返された。


待ち焦がれた3月の出所日がやってきた。
「お父さん、出発するわよ」
「ああ、そう急かせるな・・・長旅だからなあ、金沢は」
絵美は、父に気遣って、今日は金沢に三人で宿泊する手配をしていた。

「組長、今日でっせ戸村の仮出所は。どうされるんですか?」
小野田は独立してから組長と呼ばせていた。
「せやな・・・金沢やろ。警戒はしとるやろうから東京に戻ってからやろか」
「じゃあ、住む場所を探してきますわ」
「そないして。しばらくは嫁さんの実家に居るやろ。周りの様子探って来い。そうや、坂井さん連れて行ったらどうや。弁護士やろ調べやすいで」
「はい、そうします。二人のほうが怪しまれませんし」
「頼むで。なんかあったら夜中でもええから電話し。それから、一人で勝手なことしたらあかんで。やる奴は決めてるから」
「組の人間って解からんようにですね」
「そのとおりや。鉄砲玉は見つけてあるから」

水島も戸村の出所は知っていた。
「組長、話しがありますねん」
「なんや、水島」
「ちょっと出かけて来たいんですがあきませんか?」
「どこへ行くねん?」
「金沢です」
「金沢?何でや?」
「戸村の出所ですわ」
「迎えに行くんか?」
「違います。小野田の鉄砲玉から守ってやりたいんです」
「小野田の?何でそう思うねん?」
「内緒ですが、小野田組にスパイ送り込んでますねん。竜司っていう奴ですわ。そいつから、小野田が鉄砲玉を雇ったと連絡がありましてん」
「そうか、やるなあ水島。スパイか・・・さすがやな。ええで、後は任しとき。誰か連れてゆくか?」
「いいえ、一人でええです。ハジキ貸りて行きます」
「そうやな。けど、捕まるなよ」
「なるべくは・・・そうします」
「お前居らへんようになったら、困るからな。小野田はいずれやらなあかんやっちゃ。ええ機会やろ」
「そうですね。そう思います」
「戸村は絶対に戻って来ないんか?」
「ええ、多分・・・嫁さん元刑事ですよってに」
「そうやったな・・・あの女刑事やったな。ある意味最強のコンビやな。ハハハ・・・」
「そうかも知れません。うちの組に居ったら鬼に金棒ですね」
「そうやろ。説得して連れてこいや」
「冗談を・・・解っているのに」
「ない物ねだりって言うんやろ?」
「まあ・・・」
「この世界も人材乏しくなったなあ。情けないわ。戸村は優秀な奴やった。頭ええし、度胸すわっとるし、力もあるし、腕も立つ。ほんまに惜しいわ」

水島は話し終えて直ぐに新幹線で米原まで行き、北陸線の特急に乗り換えて金沢を目指した。

戸村の出所は午後5時になっていた。午前中に東京を出発した絵美と両親は関越道から北陸道を走って金沢に向かっていた。水島は神戸を立つときに大阪府警の森岡に電話をしていた。

「森岡さん、水島です。お願いがありますねん」
「なんや、聞けんこともあるで」
「今から金沢へ行きますねん。戸村絵美さんの携帯電話教えて頂けませんか?」
「なんやて?教えてどないするねん」
「忠告したいことがあるんですよ」
「何のや?」
「小野田の奴が若いもん連れて戸村を狙っとりますねん。俺は戸村を小野田から守るために金沢に行きます。絵美さんに知らせたいことがあるのでお願いしますわ」
「勝手に教えられへんがな。お前の携帯番号伝えておくから、絵美さんが掛けたいならかかってくると思うわ」
「それで良いです。必ず伝えておいて下さいね」
「お前も気いつけなあかんで」
「おおきに・・・森岡はんの世話になるようなことしませんから」
「頼むで」

森岡は絵美の携帯に電話をした。
「絵美さん、お久しぶりです」
「あら、森岡くん・・・どうしたの?子供出来たの?」
「違いますよ。水島からあなたの番号を教えてくれって頼まれたのですが、勝手に教えられへんからそのことお知らせしようと思ったんです」
「そうなの・・・早く子供作りなさいよ。水島の番号教えて。私が掛けるから」
「良いんですか?」
「何か重要なこと話したいのよきっと」

教えられた番号に電話した。
「戸村絵美です。今大丈夫ですか?」
「すみません。掛け直します。一旦切って下さい」
「いいのよこのまま話せば」
「電話代かかりますから、掛けなおしさせてください」
「そんなこと・・・解ったわ。じゃあ切るから」

そして着信音が鳴った。

「はい、すみません」
「今移動中ですか?」
「ええ、北陸道を走行中よ」
「誰と乗っているの?」
「両親よ」
「わざわざ一緒に出迎えですか?」
「せっかくだから金沢に泊まるの。ゆっくり温泉に浸からせてあげたいし、両親と会うのも久しぶりなの。話もあると思って。それより、何か情報でもあるの?」

なんとなく解っていたが、絵美は知らない振りをして尋ねた。

「言いにくいんですが、小野田の奴が戸村とあなたの命狙っとるんですわ」
「そう、やっぱり。こっちに来ているのかしら?」