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てっしゅう
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深淵「最上の愛」 最終章 残されたもの

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「そりゃそうですけど・・・解りました。森岡を付き添いさせましょう。それが条件です」
「一人で行きたいの・・・相手に刺激を与えたくないし」
「あきまへんな、条件のんでください・・・外で待たせたらええのんちゃいますの?」
「顔知れているのよ、彼は。警察が来たって思うわよ」
「離れたらどうですか?無線渡しますからオープンにして会話聞かせてもらえば森岡かていざという時に駆けつけられますし」
「どうしてもダメなの?一人で探して行くって言ったら?」
「堪忍してくださいよ・・・今は一般人なんですよ。銃もないし、GPSもないし。どこかに拉致でもされたらそれこそ戸村を誘い込む人質にされまっせ」
「人質?・・・それは考えなかったわ。そんなことするかしら?」
「小野田が居ますよってに、知恵出しますよ、そのぐらいの」
「困ったわね・・・森岡さん呼んで下さいます?」
「良かった。そうしますわ」

巡回から戻ってきた森岡と絵美はロビーで顔を合わせた。
「早川さん!どないしたんですか?」

「森岡さん、戸村なのよ。元気そうね、朋子さんはもう辞めたの?」
「そうでしたね・・・絵美さんって呼ばせてください。戸村は言いたくありませんから。朋子はまだ在職中ですよ。子供が出来たら辞めるって話しています」
「そうなの。幸せそうね・・・表情でわかるわ」
「絵美さんも、刑事の時とは表情が変わりましたね。とても女らしいですよ」
「ありがとう・・・ちょっと困ったことになってここを訪ねてきたの。聞いてくれる?」
「いいですよ。座りましょう。なんです?話って」
「山中組と水島組の話は聞きました。父が言うには水島が仮出所した戸村を誘うんじゃないかって。もう戸村にはその世界に戻って欲しくないから、水島に会って誘わないで欲しいと頼みたいの。無理かしら?」
「そう言う話でしたか・・・難しいですね、先に言わせて貰うと。会いに行かれても、その場では解ったって言うても直ぐに反故にしよりますから、あいつらは。警察に出してる誓約書かて何枚無駄になってるか。手を変え理屈こねて言い訳しますよってに」
「そう・・・どうすればいいのかしら?」
「戸村が出所したら、保護願い出されたらどうですか?」
「監視付きになるって言うこと?」
「仕方おまへんけど、それが安全とちゃいますか?」
「それこそ、24時間見張ってくれる訳じゃないから、水島たちにはいくらでも付け入る隙があるわよ。戸村は刑を終えてないから海外へは行けないし・・・国内をあちらこちらと逃げ回るのも現実的じゃないわ」
「そうおっしゃると、なかなか難しいですね」
「やっぱり、会って話すしかないのよ。ダメ元で会ってみる。事務所の場所教えてくれない?」
「危険ですよ。一人でなんか行かせられませんで。俺が着いてゆきます。離れたところで待機してますさかいに、なんかあったら無線のスイッチ入れてください。直ぐに駆けつけますから」

自分の無線につながるようにセットして、森岡は絵美に持たせた。懐かしいその手触りにふと刑事だった記憶が甦ってきた。

尼崎市内にあった水島の事務所に絵美は着いた。どこかの旧家を買い取って修復したのであろうか、門構えも立派で大きな家だった。周りとの景観が違っているのは、監視カメラが幾つも付いていることと、ガラス窓が防弾ガラス製に変わっていることであった。一見しただけでここが誰の住まいか想像できるような感じだった。

インターホンを押した。
「水島さんいらっしゃいますか?」
返事が無い。もう一度押しながら話をした。
「戸村絵美といいます。水島さんご在宅ですか?」
プツッという音に続いて返事が返ってきた。
「何の用事でっか?」
「水島さんとお話がしたいと伺いました。会わせて下さい」
「待ってください・・・今迎えに行きますから」

直ぐに門扉が開いて男が迎えに出てきた。頭を下げて絵美に挨拶をした。
「こちらです。ご案内しますから着いて来てください」
物腰も柔らかく丁寧な応対だった。自分が戸村翔太の妻だと解っていたのであろう。
水島は応接間に控えていた。

「初めまして。水島です。戸村絵美さんといいますと、戸村翔太の奥様でしょうか?」
「はい、そうです」
「これはこれはわざわざお越しくださってありがとうございました。どうぞお掛けください」
「水島さん、用件だけ先に言わせていただきます。戸村は足を洗って出直す約束を私としております。今後一切彼との連絡を取らないようにお願いします」
「奥様、何を言われるのかと思いましたら、そんな事ですか。逮捕されてからもう戸村は諦めようと死んだ山中とも話していたんですよ。まだ出所なんか出来ないでしょ?何故そのように思われたのですか?」
「そういう動きがあると聞きましたので、心配になったんです」
「誰が言ったのでしょうね・・・そんな事。俺には戸村を呼び戻す考えは無いですよ。あいつを幸せにしてやってください」
「本当なの?信じられるの」
「本当ですよ。俺は約束は守る。ここではっきりと約束しますよ」
「ありがとう。戸村が話してくれたように、あなたは人格者なのね。この世界に居るなんて惜しいわ」

このときの約束を信じて絵美は東京に戻っていった。

「小野田さん、水島組長は戸村さんを呼び戻さないとさっきの女に言いましたぜ。そんでよろしいんですか?」
一樹会から流れてきた小野田の手下がそう耳打ちした。
「ほんまか!あの女はな、昔刑事やったんや。俺を逮捕したのも、籾山を逮捕したのも、戸村を逮捕したのもあいつやったんやで。覚えておき・・・いつか借り返さんと気がすまへんで」
「はい、よう覚えておきますわ」
「水島には内緒にしときや。戸村はもう諦めとるから。役にたたんのやったら、俺や籾山の恨み晴らさなあかんわ。解かっとるやろ?言いたいこと」
「はい、もちろんです。すぐにでっか?」
「戸村が出てきてからでええ・・・二人一緒に慰めたり」
「女の方はやらせてもろうてええですか?」
「好きにしい・・・」

水島は小野田が自分とは違う考えを持っていることを警戒していた。しかし今は山中組とのシマ争いに早く決着をつけて、死んだおやっさんの言い残してくれていた本道を歩くことが自分の使命だし、水島組が生き抜くための唯一の方法だと信じていた。小野田は組が合併された口惜しさが残っていて、何とか水島を追い出せないかと模索をしていた。絵美が尋ねてきたことは渡りに船だとほくそえんだ。

戸村の仮出所を待って、葬り去れば水島の力が弱まる。一番の子分を殺されても動かなかったら、信用が無くなる。その時に小野田の威厳が取り戻せるし、仮に山中組にやられたと吹聴すれば、水島は乗り込んで行くかも知れないとの両面で小野田の考えているような、思う壺にはまってくれると計算していた。

小野田は水島が消えた後に山中組と和解して、再び一樹会を盛り返そうとこのチャンスにかけていた。水島は絵美が尋ねてきたことで、不穏な動きが内部にあるのかも知れないと心を痛めるようになっていた。