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てっしゅう
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深淵「最上の愛」 最終章 残されたもの

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「そんなものですね」
「あなたは仕事されてないの?」
「していますよ。学校の指導員として通っています」
「へえ?指導員・・・何を教えてらっしゃるの?」
「すみません・・・言えないんです。普通の学校じゃないものですから」
「いいのよ、お子さんは?」
「居ません。欲しいですけど・・・まだ先ですね」
「もういいんじゃないの?年とってからだと大変って聞きますよ」
「よく言われます。なるべく早くとは思っていますが、今は無理なんです。それより、島崎さんのお子様は名古屋ですか?」
「いいえ、娘だけなんですが福岡に嫁いでいます。婿が転勤族で可哀そうです」
「何されているんですか?」
「警察官です」
「まあ!刑事さんですか・・・そうでしたの」
「不規則な仕事だし、危険だし、結婚するって言うときに夫と猛反対したんですが・・・大丈夫って利かなくて」
「好きだったのですね、ご主人のこと・・・宜しいんじゃないんですか?」
「公務員ですから一応、収入は安定してますが・・・転勤がね、多いんですよ」
「国家公務員ですからね・・・仕方ないですね。お幾つですか?お婿さんって」
「33歳かな・・・確か・・・」
「私と一緒ですね。これも偶然ですね」
「そうなの!ほんとそうね」
「もっと驚きますよ!私は退職しましたが、夏までは刑事だったんですよ」
「うそ!そんな事って・・・不思議なご縁ね・・・旧姓は何と仰るの?」
「早川です。お婿さんの名前は何ですの?」
「大川です。確かお父様も警察の偉い方だと聞いています」
「大川・・・隆史さんと仰るのでしょうか?」
「そうです。そんなお名前でした」
「私の上司だった人です。懐かしいお名前伺いました。そうでしたか・・・娘さんにしっかりと支えになってあげてくれるように私からお願いします」

こんな出会いもあるんだと、絵美はなんだか嬉しくなっていた。

列車は東京駅に着いた。電話をしていたので母が迎えに来てくれていた。車内で仲良くなった島崎を紹介してそれぞれに別れた。家に帰ると父親が話があると絵美に自分の部屋に来るように誘った。

「どうしたの?お父さん」
「いい知らせじゃないんだ」
「何が?」
「大阪にいる同僚から情報があって、戸村の居た山中組の組長が亡くなったようなんだ」
「山中が・・・そう、悪いとは聞かされたことがあるけど、そう」
「代が変わるというだけで済めばいいんだが、お前も知っているように水島がのれん分けして組を作っていただろう?」
「小野田が居た一樹会の残党を引き取ったとか聞いてるわ」
「その水島組と山中組が抗争になって、また神戸は騒然としているらしいよ」
「そうなの・・・でも、お父さん、もう私には関係ないのよ。何故話すの?」
「水島はその抗争に決着をつけるために出所した戸村を引っ張るということにならないか心配しているんだよ」
「戸村が・・・水島に誘われて戻るって言うこと?」
「そうだ。やくざは義理人情だからなあ」
「あの人はもうそんな世界になじむ人じゃないのよ。私と結婚して穏やかに暮らそうって約束しているの。そんな事ありえない・・・」
「だといいんだがな・・・15年間、飯を食ってきたところだろう。簡単に忘れられるのか、心配なんだよ」
「お父さん・・・先に言っておくけど、戸村が戻るようなことがあれば私は許さないから。どんな事をしても阻止するし、出来ないときは・・・」
そこまで言って、父親の顔をじっと見つめた。父にはその続きが何と言いたかったのかはっきりと解っていた。

「絵美!戸村が仮出所してきたら、とにかく姿を隠せ。北海道にでも行ってほとぼりが冷めるまで帰ってくるな。そうしろ。金はやるから心配するな。いいな?」
「お父さん・・・そんなにまで、私たちのこと考えてくれているのね。ありがとう」
「大切な娘だぞ。絵美は・・・幾つになっても俺には子供なんだ。お前は」

父の言葉は心に染みた。涙が止まらなくなり、せっかくの着物がシミだらけになってしまった。

父親が話した水島は戸村にとって本当の兄のように感じてきた存在だった。もし、目の前の水島から頭を下げられて頼まれたら、戸村は断れるだろうか。死んだ山中と水島のために命を自ら葬ろうと決めていた戸村だったのだから。

仮出所を心待ちにする気持ちと、このままずっと服役していて欲しい気持ちが交錯していた。面会して父から聞いた話を伝えることは出来ない。どうすればいいのか解らなくなっていた絵美の携帯に大阪府警の及川から電話がかかってきた。

「ご無沙汰をしております。今電話ええですか?」
「及川さん!久しぶりね。どうしたの急に?」
「ちょっとお伝えしたいことがおましてん。時間ええですか?」
「いいよ、何?」
「弁護士から聞きよりましてんけど、小野田が近々仮出所するようですわ。水島のところに行って戸村の事でなにやら動きをするような気配ですからお知らせしたほうがええかと思いまして、電話しました」
「そうだったの・・・小野田が出所するの。父が話してくれたような動きがあると言う事ね?」
「お父様が?ああ、そういえば警察官でしたね・・・もう聞きはりましたの」
「うん、戸村が出所したら水島に誘われるだろうから、気を付けるようにってね」
「ほんまでっせ。今はおとなしくしとるようですが、戸村が帰ってきたら攻勢かけて山中を潰すような勢いですわ」
「ねえ?仲良かった組同士なのに何が原因なの?抗争の」
「ええ、組長の下に居った代理がどうも水島に先越されて仕返しをねらっとったようですわ」
「父親が亡くなって息子が本性を現すようなものね」
「そうだす・・・水島は実力者やから、山中組からも何人か若いもんが寝返ったようで、力は均衡してますわ」
「大変ね、府警も。まだ引きずってゆくのね、私たちの事件を」
「ほんまですわ、かないませんわ。もっとも、森岡の奴は気合入ってますけど・・・危ないから走りすぎは止めときって言ってますけど、性格ですねあきまへんわ」
「新婚なのよ、彼は。命を落とすようなことにならないようにしてあげてね、及川さん」
「はい、解ってますよ。ほな、今日はこれで失礼します。なにか解ったらまた電話しますよってに」

絵美の不安は本物になっていた。戸村が出所する前に水島にはっきりと話を付けておこうと神戸に行く決心をした。

ゴールデンウィークは自粛ムードの中で近場に人が集まっていた。混雑する新幹線に乗って絵美は大阪に向かっていた。連休といえども警察に休みは無い。府警に電話をして及川に玄関で待っていてくれるように頼んだ。

「早川さん・・・今は戸村さんでしたね。何しに来やはりましたん?」
「及川さん、ゴメンなさいねお忙しいのに電話なんかして」
「構いませんよ。そんなこと気にせんといて下さい」
「水島の居場所を教えて欲しいの」
「何ですって?水島の事務所に行かはりますの?」
「そのつもり・・・」
「暴力団ですよ、相手は。それに今は抗争中ですし、やめて下さい。教えられませんよ」
「お願い、会って頼みたいことがあるの」
「そんなん、聞いてくれまへんで。何されるかわかりませんよ。女やし」
「水島は人格者だと聞いています。危害を加えるようなことはしないでしょう。私は戸村ですよ」