死者からのメール
八月になった。ふたりは毎日のように、メールを往復させていた。いよいよ逢える日の前日の晩、午後八時を過ぎたときに木原は汗だくの状態で帰宅し、急いでパソコンの電源を入れた。
[明日の朝、ついについに、理絵花ちゃんを抱きに行きます]
[勝負下着で待ってます。どうか無事に辿り着いてください]
[いくら暑くても、下着姿で出歩かないでおくれ。留置場へ行っても何もできないからね]
[あなたが好きな白いワンピースを買いましたから、大丈夫です]
[じゃあ、下着も白ですか?黒もいいなあなんて、思ったりしていました]
[早く出かけてください。バスに乗り遅れます]
[はいはい。理絵花姫のご命令とあれば、従わないわけにも参りませぬ。では、八時間あまり後に、感動の再会を致しましょう]
[お待ちしています。涙が止まりません。一刻も早く、姫を抱きに来てください]
木原はキャスター付きの旅行用のバッグを携えて出かけた。まだ三十度はありそうな暑さの中を大通りまで歩いた。タクシーで最寄り駅に行き、高速バスが出るターミナルを目指した。
彼は白いワンピースが好きだと、理絵花に伝えた記憶はなかった。ほかの男と混同しているのではないかと、彼は心配になった。正月に初めて男を知った娘が、八箇月の間我慢できるのだろうかと、そんな疑惑を初めて感じている。木原のほうは、理絵花以外の女性と親しくなろう、などとは一度も思わなかった。理絵花は非常に素直な性格で、一日も途切れることなくメールを送って来た。木原は返信できないこともあったが、彼女はそういうことがなかった。