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てっしゅう
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哀恋草 第八章 父との再会

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一蔵は頷き、奥に居た全員と話し合った。法皇は、まず義経と影光を出奔させ、勝秀と一蔵は吉野へ戻る事を勧めた。ここへ景時が来ているその留守を見て時政邸から久と光、みよを連れ出し、鞍馬の別邸へ向かわせることを提案した。勝秀は、自分が光と久に会うことが出来れば、機会をうかがって、景時または時政の首を狙いたいと話した。法皇はいったん鞍馬へ忍び、機会をうかがえ、と諌めた。弥生と志乃は連れ出す手順を打ち合わせして、明日朝、待ち合わせしようと約束した。そして法皇は今夜のうちに勝秀と一蔵は鞍馬の別邸へ向かい自分の書簡を住まわせている子紫に示して久たちが着くのを待つように促した。

翌朝景時は自らの軍勢と京警護の時政の軍勢を合わせて100騎、表側と裏側50ずつに分かれて、遠巻きに法住寺、法住寺殿を囲んだ。街中の人々は何が始まったのか、覗くようにして事態を見ていた。

弥生は時政も出立したことを受けて、約束どおり裏木戸の鍵を開け、逃がす準備を整えた。鍵は見張りが持っていたが、弥生が外に出て木戸を掃除したいと嘘をつき、錠前を開けさせている隙に見張りを気絶させ、外に居た志乃を中へ引き入れ、光、久、みよ、の三人を連れ出した。倒れている兵士に猿轡をして、手足を縛り、志乃たち4人は賀茂川沿いに鞍馬へと向かった。弥生は表から慌てることなく出て、自分も鞍馬を目指した。もう二度と戻れないし、自分たちにも捜査が及ぶ。志乃と二人、覚悟を決めなければならない。賀茂川を吹く風は五月にしては肌寒く感じられ、足早に急ぐ鞍馬は尚一層の寒さを感じさせる陽気になっていた。

志乃たちに追いついた弥生は、万が一を予期して、二手に分かれて進もうと話した。志乃は光と、みよと久は弥生とそれぞれ川の反対側に分かれて、進んだ。かつて久たちを尾行した自分が今こうして同じ道を進もうとは、誰が予想したであろうか。信頼していた時政の憤怒はいかばかりか、この先に待ち受ける試練を感じさせずには居られなかった。


「志乃どの・・・一蔵殿から聞き及びました。藤江殿を・・・手にかけられたとか。光には信じられません。本当なのでございまするか?」
「光殿、お聞きであったか・・・申し訳ないことを致したと悔やんでいます。今は言い訳より魂を弔うことが先決。あなた様を無事お父上に引き合わせ出来ますれば、私は仏門に入り、剃髪し罪を悔いて生きて行きとうございます。その事は信じてくだされ」
「時政殿のご命令であったのですね。ならばいた仕方のないこと。志乃どのは今や鎌倉の敵、光には身の上が心配でなりませぬ。我らのためにここまでなされたそのことが、本当のお心・・・誰も責めは致しませぬ」

志乃は光の鋭い観察と、どこまでも透明な清い心が本当に羨ましくなった。人は生まれ持った天分というのか、育ちがそうさせたのか、真っ直ぐに人を見るという性格が備わっているか、いないかで、印象が決まる。魅かれる大部分はこの気持ちが備わっていることへの憧れになって現われる。世の中が殺伐としている時こそ大切な思いなのであろう。生きる望みを世渡り上手で切り抜けようと画策してきた自分と弥生には、あまりにも違う女子(おなご)に思えた。今ここで光と出逢えたことが、せめてもの救いであったと、自分を慰めた。辺りが薄暗くなってきた頃に、別邸は見えてきた。別の道からきた弥生たちも前を歩いていた。きっと弥生も自分と同じ気持ちに感じているだろうことは確信が持てた。同じ仲間であることのある種、六感が志乃には感じ取れた。

「久どの、みよさま〜」
「無事だったようでよかったのう、光」
「はい、父上様と逢えるのですね・・・光は、ドキドキいたします」

久も同じ思いであった。仲の良いみよの傍にくっついて光は気が急く思いで歩いていた。

竹やぶの中を抜けて、ひっそりと別邸は建っていた。小紫が気配に気付き、外で待っていた。

「ご無事でしたか。別邸の留守を預かる小紫といいます。先に到着されておられるお二人から、法皇様のお言付け戴いております。ご安心召されて、中にお入り下さい」
「これはご丁寧に恐れ入ります。私は志乃、こちらは弥生、ともに時政殿が家臣でございましたが、今は謀反人・・・こちらが光どの、そして久どの、みよどのでございます」

挨拶を交わし、五人は中へと入っていった。久と小紫は暮らしていたから顔見知り。義経と影光の様子を聞いた。小紫は、ここへは立ち寄らずに、大津から琵琶湖を抜けて北上すると聞き及んでいると答えた。無事を祈らずにはいられない久であった。一時とはいえ、ここでの暮らしは、お互いの信頼関係を築いていたからだ。やがて一蔵と勝秀が現われた。

光はひと目勝秀を見ただけでその場に泣き伏してしまった。傍にいたみよが、背中をさすって声をかけていた。

「みつ!思いは叶えられましたね。さあ、泣かずに父上の顔を見られよ。そのように伏していては困られまするぞ」
「光!大きくなったのう。美人じゃ、本当にうつくしいのう・・・勝秀は嬉しいぞ。久も苦労をかけたな、礼を言うぞ。みよどの、光は慕って居るようじゃのう。これからも傍にいてやってくれまいか?」
「勝秀様、みよは・・・光どのに救われてございまする。私の方こそ、お傍にいて欲しゅうござります」
「良い話じゃ。光は幸せ者に感じられるぞ。もう泣くでない。これからは三人で力あわせて生き延びよ。勝秀は勇気をもらえた。これで思い残す事はない!」
「父上、何をなさろうとお考えですか?光は、ご一緒に暮らしとうございます」
「・・・すまぬ。一蔵と一緒に吉野へ帰ってくれ。父はことが成就した暁には、必ずそなたの傍に行くであろう。それまで、平和に暮らせよ」

勝秀は今宵が三人にとって最後の日であろうことを感じずにはいられなかった。目的を遂げる機会はそうめったにやってこない。今は自分の命に代えて景時を討つ覚悟でいた。義経から景時へと気持ちを切り替えての行動だった。


法住寺と法住寺殿を囲んだ景時、時政は、詔を見せて、中へ押し入った。馬から下りて時政は宣旨を右手に掴み前に差し出して、守護職としての権限で中を検める、と言い放った。景時の号令で、馬から下りた兵士たちはいっせいに寺の中へ押し入り、本堂と、隣接している住まいとをしらみつぶしに探した。後白河は寝所で臥せっていた。病を繕っていたのだ。

「失礼仕る!法皇様とお見受けいたしまする。無礼お許し下されませ」

そう言って、宣旨を見せながら、時政は入ってきた。おびえる様子を演出して自分は何も知らないと態度で示した。

「無礼を承知でお聞きしたいことがござりまする。こちらに義経が一行、匿われておるやも・・・との知らせに本日検分させていただくことに相成りましてござります。法皇様には危害は加えませぬが、事と次第によりましては、鎌倉へ報告いたし、頼朝殿の判断を仰がねばなりませぬ・・・正直にお答えくださりませ。いかがでござりまするか?」
「時政。存分に中を調べよ。そのような者は匿もうてはおらぬわ。誰がもうしたかは存ぜぬが、お主も何も無き事でどう責任を取るつもりじゃ?」