after Today.
「……そう思ってるの、多分怜ちゃんだけじゃないよね。でもね、 怜ちゃんにははっきり言う。これは私の素だよ。今怜ちゃんと喋ってるこの私が石田彩香。 怜ちゃん、頭いいからわかるよね。私は八方美人でもない、こびたりもしてない。 私はいつも私の言葉で皆と喋ってるよ」
多分これが彼女の本当の姿だろう。弱まっていく語気に、彼女らしさが感じられた。
疑った私が悪かった。彼女の真剣な眼差しから逃げるように目をそらす。やっぱり人と目を合わせるのは苦手だ。いかに自分が汚いか思い知らされる。
「私、頭良くなんかないよ。いつだって自分本位で、自己中だし、誰かに何かしてあげた記憶もない。 そんな私が、頭いいわけないじゃん。ずるいだけで」
「全然、怜ちゃんっていつも優しいよ 。怜ちゃんといるとやっぱり癒されるよ。 それに、いつも漢字テスト満点じゃん。嘘だぁー」
論点がずれたとしても会話を戻さない、それも彼女の優しさだ。どうして彼女を疑ったりしたのだろう。その理由さえ思えだせなくなる。
「あれは……彩香さんが隣になってから。努力してる人見てると、私も頑張らなきゃって思えるんだよ。 だからちっちゃいけど努力してみたんだ。志望校ギリギリだったけど、変えないでおいてよかったぁ」
「怜ちゃん志望校どこなの?」
ため息をつく。
「ん、二高……だけど」
「あ、一緒! 私も二高だよ!」
私より遥かに頭のいい彼女がどうして二番手の高校に行くのか不思議だった。しかしその理由を聞く前に、彼女は別の話題に切り替えた。
「……、あのね。怜ちゃんだけには言っておこうと思ったんだけど。私ね、弟ができたの!」
あまりに唐突な話題変換に多少戸惑ってしまった。ヒソヒソ声で発せられた言葉に重みは感じられなかった。
彼女の嬉しさには共感したいが、いくらなんでも年が離れすぎてはいないか。
「へぇ、おめでとう。彩香さんの弟なら、彩香さんにそっくりそう」
そんな報告、今まで受けたことがなかったからどう答えればいいのか分からず、苦しい返答になってしまった。
彼女は少し間を置いて、
「でも、私には似てないかなぁ」
と、考えながら言った。
「えっ、もう……?」
『生まれたの?』というのが憚られて、おかしな疑問文になってしまった。彼女は「え、ああ……」などと返事と呼べるのか微妙な言葉を発しながら、
「あ、もう授業始まっちゃうよ。児島先生、チャイムが鳴るときに静かにしてないと怒られちゃう!」
とってつけたような彼女らしくない会話の終わらせ方が妙に気になって、授業中も教室の中を漂っていた。
作品名:after Today. 作家名:さと