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after Today.

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 あと一月余りで高校生になる、という現実味のない感覚が頭を満たしていく季節、私は未だ彼女の全てをつかめずにいた。
 昼休み、午後の授業の準備をする彼女の横顔を見ていたときのことだ。私の視線に気付いた彼女は私を見て、
「どうかした?歯に青のりでも付いてる?」
 彼女は自分の口に手を当てる。そんな仕草でも様になるのだから彼女は相当綺麗なんだな、と再認識する。 
まさか話しかけられるとは思っていなかったので、私の返事は適当だ。
「え……。いや、彩香さんってすごく大人っぽいなって」
「珍しいこというね。私、子供っぽいってよく言われるけど。それより怜ちゃんの方が大人っぽいよ。静かで、読書家だし。隣から見てていつも見とれちゃう」
 彼女は頬杖をつきながら私をじっと見る。この人は他人に対してなんの惜しげもなく美しい言葉を紡ぎだす。『大人っぽい』 『静か』という言葉の美しさを、生まれてからの15年間、全く知らなかった気がする。いつも揶揄や嫌味を含んでいた言葉たちは、 本来の意味で使われたときにこうも輝くのか。
 つい、そんなことを考えてしまい、ふと我に返る。
「私、彩香さんの方が老成してると思う。それに私、来年やっと4歳になれるのに、大人っぽいわけないよ」
 彼女のさらに奥に見える薄い青空をぼうっと見る。自然に笑みがこぼれた。
 違う。私はこんなことを話す為に彼女に近づいたんじゃない。そうは思っていながらも、 尚も彼女に吸い寄せられていく私がいる。 彼女といると、自分の黒い部分が浄化されていくようで、心地いい。いつか他人につけられた擦り傷なんて、どこか遠く 、過去の出来事のような気がしてくる。 この自然に出る笑いも、偽物ではなかった。 心が春の風船のようにふわふわと肋骨の間を飛びまわっているのだ。
「老成ってなによ?それに4歳って。本当、怜ちゃんと喋ってると和むなあ」
「彩香さんって、みんなにそういうこと言ってるイメージあるんだけどさ、本心なの?私と喋っててさ、本当に楽しいの?」
 自分でも何故いきなりこんなことを口走ったのか分からない。
 彼女はきょとんとして、手に持っていた英語の教科書を自分の机に置いた。
 聞いてみたものの、彼女の答えなんて、分かっていた。彼女がそんな上辺だけの人間ではないと、とうに分かっていた。 でも、月末まであと一週間とない。この言葉で壊れる関係なら壊れてしまえばいい。 彼女がいなくなったところで、私は前と変わらない生活を送るだけ。以前より悪化したとしても、 もうこの学校とも一月ちょっとでオサラバだ。思い切って聞いてしまえば、 彼女が嘘をついているかどうかなんて簡単に分かる。
 なんて、後付けの理由ばかりが頭の中を巡って。つくづく自分は度胸がないな、と心の中でため息をつく。
 彼女を信じる私と、彼女を疑う私が戦っていた。

作品名:after Today. 作家名:さと