after Today.
「はい、じゃあ隣の人とノート交換してー」
先生の声が教室に響く。午後の授業というのもあってか、クラスメイトの多くが頭を重そうにしていた。
彼女のノートに書かれた漢字テストの解答に誤りはなかった。席替えまでのこり半月だが、彼女の印象は今までと変わらないままだった。
「石田さんって、なんでもできるよね。本当、尊敬するなぁ」
多分、これが初めて彼女に話しかけた瞬間だっただろう。彼女はいつも笑って私の目を見ていた。
「『石田さん』じゃなくて下の名前で呼んで欲しいな」
少し驚いた。今まで他人から近づかれた経験を持たない私は、彼女にどこまで近づいていいのかわからなかったのだ。
「じゃあ……彩香さん。どうしてそんなに何でもできるの? やっぱり努力してるんだよね」
「うーん、どうしてって言われてもなぁ。たまたま自分の出来る分野が学校のテストとかで評価されてるだけだと思う。それに、何でもなんてできないよ。写生くらいなら許せるけど、ピカソとかのアート? ってやつはどうしても理解できない。本当、21世紀の地球に生まれてきて良かった! って思うよ。もし芸術で気持ちを表現する世界とかに生まれてたら私、 発狂してた」
目を細めながら彼女は私のノートを返してくれた。私も彼女のを手渡す。
私の漢字テストも満点だった。
作品名:after Today. 作家名:さと