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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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傀儡士紫苑 in the Eden

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 クローバー同盟はいくつもの怪奇事件を解決した。その中のひとつに朱の一族との戦いがあったのだ。
 しかし、メルフィーナを滅ぼすことは、どんな手を使っても不可能だった。切り刻んでも、焼き払っても、何度でもメルフィーナは蘇った。
 そこで苦心の末に倒すことを諦め、復活を遅らせるという臨時処置をしたのだ。
 あれから約25年の間、メルフィーナの脅威は影を潜めた。
 しかし、蘇ったのだ。
 メルフィーナは復讐のために蘇った。
「けれども完全体とは言えないわ、この心臓があの女の手に戻らない限りは」
 と、ユウカは話の最後に付け加えた。
「この心臓を取り返しに来る可能性はありますね」
「だからアナタに預かって欲しいワケ。ウチのセキュリティーは万全だけれど、あの怪物と殺り合うなんて採算が合わないわ」
「わかりました僕が預かります、父に代わって」
「そうよね、蘭魔クンがいれば彼に任せるんだけれど、どこ行っちゃったのかしらね、彼」
「やはりユウカさんも知りませんか……」
 もう10年近く愁斗は父の顔を見ていない。どこでなにをしているのか、それすらわからない。最後に父の顔を見たのは、魔導結社D∴Cの施設である?白い家?を逃げ出したときだ。
 その数年後、ホームレス生活をしていた愁斗が亜季菜に拾われたのは、偶然ではなく運命の必然だったかもしれない。
 今、こうして愁斗とユウカは出逢った。
 メルフィーナとの戦いも因果運命なのかもしれない。
 ユウカの車椅子に取り付けられている無線機が着信音を鳴らした。
 通話ボタンを押すとスピーカーから聞こえてくるバトラーの声。
《何者かが屋敷の敷地内に侵入しました》
「映像頂戴」
《畏まりました》
 車椅子に付属されたノートパソコンが全自動で開かれ、ディスプレイに防犯カメラの映像が映し出された。
 映し出された軍勢の影は見間違えようがない。
 愁斗よりも早くユウカが驚きの声をあげる。
「メルフィーナ!」
「遅かったようですね。彼女はここに心臓を取りに来た」
 愁斗よ、いかにメルフィーナを向かえ討つ!

 庭の底からスプリンクラーのように突き出たビーム照射機
 発射されるビームを浴びて爆発を起こす偽妖女たち。
 攻めてはいるが、すぐに傷を再生させる相手には、些細な足止めにしかならない。
 ノートパソコンを覗きながらユウカは苦い顔をする。
「屋敷の中に攻め込まれるのも時間の問題だわね。Mフィールドを発動させたいのだけれど、いいかしら?」
「僕が外に出るまで待ってください。あとまだしばらくの間、これを預かっていてください」
 メルフィーナの心臓をユウカに手渡し、愁斗は急いで屋敷の外に向かった。
 玄関ホールで愁斗は伊瀬に呼び止められた。
「愁斗さん、通信機です」
 伊瀬の投げたイヤホン型通信機を受け取り愁斗は外に出た。
 玄関を出たすぐそこに偽妖女たちが迫っていた。その数は両手では納まりきれない。20、30と次から次へと湧いてくるようである。遠くにいる影は月夜の晩では見通せない。
 愁斗が玄関を出てすぐ、屋敷全体は蒼白い防護フィールドに包まれた。魔導式のエネルギーフィールドだ。
 迫り来る偽妖女を愁斗の妖糸が断ち割る。
 脳を割られた妖女は肉塊と化す。偽者の証拠だ。
 愁斗の耳に声が響いた。
《愁斗さん……聴こえ……ますか?》
 伊瀬の声だ。
「Mフィールドの影響で、少し電波状況が悪いようですね」
《周波数を強くしました。クリアに聴こえるようになりましたか?》
「はい、問題なく聞こえます」
 受け答えながら愁斗は偽妖女の攻撃を躱し、鮮やかな手つきで煌きを放つ。
 その動きを映すカメラアイ。
《引きこもりなのに、よく動けるわね愁斗クン》
 伊瀬とは違う声が通信機から聴こえた。亜季菜の声だった。
「亜季菜さんは少し静かにしていてください」
 言葉に棘を含み、愁斗は黙々と敵を八つ裂きにしていく。
 1体を狩りながら、眼は別の妖女を探している。
 この中のどれかに本物がいる。
 本物プレッシャーを感じるが、偽者に混ざりすぎて見分けがつかない。
 視線を動かす愁斗の耳にユウカからの通信が入る。
《機動警察が乗り込んでくるそうよ、なにが有事律法よウザイわね》
「邪魔です、僕の姿も見られたくない。どうにかなりませんか?」
《するわよ、アタシだって自分ちで機動警察に暴れられたくないもの》
 機動警察に圧力をかけられる民間人は数少ない。ユウナは数少ないひとりなのだ。
 続けて伊瀬の声が割り込んできた。
《機動警察ではなく別の侵入者が敷地内に……植物園がある方向です》
「植物園?」
《正面門を上とすると、左下、屋敷の裏手です》
「徒歩では遠いですか?」
《遠いですね》
「なら相手がここに来るまで待ちましょう」
 最初のうちはバラバラに散らばっていた偽妖女たちだが、いつの間にか一箇所に終結しようとしているのが窺えた。みな、愁斗の元へ集まってきているのだ。新たな侵入者が同じように来る可能性は高い。
 愁斗の手が急に止まった。
「可笑しい」
 止まったのは愁斗だけではなかった。
 偽妖女たちも動きを止めている。動いていたのは――本物だけだ。
「心の臓が鼓動を打ちて呼んでおる。やはり汝が持っておったのじゃな蘭魔!」
 メルフィーナが睨みつけた視線の先にいた者は、
「残念ながら僕は蘭魔じゃない」
 愁斗だった。
 偽者たちが枯れはじめる。
 灰と化して地に積もる。だが、そのまま地に還ることはなかった。
 メルフィーナの躰から細枝のような部位がいくつも伸び、地に刺さると養分を吸いはじめたのだ。
 敵は前にいる。
 しかし、愁斗は下から来ると感じた。
 幹が意志を持ったように地面から突き出し愁斗を串刺しにせんとする!
 メルフィーナの躰から伸びた部位だ。
 飛び退き躱した愁斗は地面からの刺客に妖糸を払おうとしたが、手を止めて本体に向かって妖糸を放った。
 地面との接合部を切られたメルフィーナはニヤリとした。
 すでに積もった灰は消えていた。それだけではない、芝まで枯れてしまっている。辺りの精を吸い尽くしたのだ。
 枯渇した大地が自然に元に戻ることはないだろう。新しい土を入れるしかない。
「生を喰い尽す悪魔か……」
 呟く愁斗の耳に大声が流れ込んだ。
《愁斗さん後ろ!》
 伊瀬の声に反応して後ろを見ると、そこには蒼白い顔に浮かぶ紅い唇があった。
「朱の一族は禁忌を犯した。故に放逐されなければならないんだ」
 影よりも密やかに瑠流斗がいた。
 そして、銃声が鳴った。
 その音はおぞましい。
 幼女が泣き叫び、男が吼え、老婆が嗤う。
 怨霊たちが蠢き、闇を形成する。
 リボルバーから発射された怨霊呪弾はメルフィーナの肉を喰らうはずだった。
「外してしまったね」
 呟く瑠流斗の視線の先にメルフィーナの姿はない。
 愁斗も消える瞬間を見ていた。
「地に潜ったようだけど……そのことより僕まで殺す気ですか?」
「キミが延長線上にいたのだから仕方ないさ」
 瑠流斗の放った呪弾は愁斗の目の前で放たれた。呪弾は口径よりも大きな渦を巻いて飛ぶために、弾の中心から30〜100センチは危険範囲になる。そこに入れば怨霊に呑まれ手しまう。