君が袖振る
それは投稿小説・『君が袖振る』、作家は「紫野」と紹介されていた。
「君が袖振る」、そして「紫野」。 これら二つ言葉からの一般的なひらめき、それは万葉集。
茜さす 紫野(むらさきの)行き 標野(しめの)行き 野守(のもり)は見ずや 君が袖振る
額田王(ぬかたのおおきみ)が別れた夫の大海人皇子(おおあまのみこ)にこう歌った。
それは、今から約一千三百四十年前の西暦六六八年頃のこと。
そして、その時代を彩った主要な人物は三人。
一人は大海人皇子、後の天武天皇だ。
二人目はその妃。 聡明で、絶世の美貌を持った額田王。
三人目が中大兄皇子(なかのおおえのおうじ)で、大海人皇子の兄。つまり天智天皇なのだ。
兄である中大兄皇子は、蘇我氏を滅ぼした後、政治の実権を握ってしまう。そして、その力に任せて、弟の大海人皇子の妃だった額田王を奪ってしまうのだ。
時は西暦六六八年、中大兄皇子は近江京に遷都をし、天智天皇となる。
その陰暦五月五日に、奪った額田王を連れて、大地に広がる蒲生野(がもうの)に薬狩り(薬草を採集する行事)に出掛けた。
その時に、額田王は元夫の大海人皇子に再会する。そして、詠う。
茜さす 紫野行き 標野行き 野守は見ずや 君が袖振る