君が袖振る
龍介のお好みのサイト。それは最近ネット内で人気が出てきている会員制ホビー倶楽部。
長く独身生活をしていると、時として暇を持て余すことがある。
龍介は、特にこれはと言った趣味を持っていない。だが冷やかし半分で、このホビー倶楽部に入会した。
しかし無駄ではなかった。そこには多種多様、百般の情報が溢れていて、結構面白い。
外はまた雪が降り出した。出掛けることは億劫。
そんな独身生活の日曜日の朝。龍介は気の向くままに、このホビー倶楽部のネット内を散策し始めた。そして、特別企画の案内が目に飛び込んできた。
このホビー倶楽部には、最近会員から注目されている投稿コーナーがある。そこでは、この新春に当たって特別企画が組まれ、投稿小説の案内だった。
そのお題は「恋文」。年末から小説が募られてきていたようだ。
そして、この呼び掛けに対し、我こそはという市井の多くの作家達が、それぞれの自信作を投稿してきている。
「恋文って、新春早々熱いよなあ、だけど、なんでラブレターじゃないんだろうか。男と女の切っても切れない情愛、それを感じさせる作品をイメージしての募集なのかなあ・・・・・・そういうことなら、懸想文(けそうぶみ)、あるいは艶文(つやぶみ)と、もっと色っぽく言い切ってしまった方が、結構面白いのになあ」
龍介は余程暇なのか、こんな古典的なことをぶつぶつと一人呟いている。そして画面リストを開いてみると、約五十作品が一覧となって表示されている。それは、それだけの数の作品が応募されてきたということなのだ。
「何か面白い小説はあるかなあ」
龍介は特に仔細にということではなく、何気なくそれぞれの小説タイトルを目で追っていった。そしてあるタイトルまで進み、身体が固まってしまった。
「えっ、これって?」
それはつまり、龍介にとって、極めて気になる作品を見付けてしまったのだ。