君が袖振る
第二章 君が袖振る
外は、昨夜来からの雪が積もっているようだ。龍介は雪の仄かな香りを感じ、遅掛けにベッドから抜け出した。
朝の陽光が一面の雪に跳ね返り、カーテンの隙間から部屋に侵入してきている。
龍介は、気怠さが残る眠気に訣別するかのように、カーテンを思い切り開けた。その途端、冬の冷えた閃光が、部屋のあらゆる箇所に突き刺さっていく。
目映い。
龍介は暫く目が慣れてくるのを待った。そして、アパートの窓から外を眺めてみる。
すべてが真っ白だ。
朝の光があちこちでチクチクと乱反射し、その輝度ある純白さが目に痛い。
「あ~あ、雪か」
龍介は実につまらなさそうに一言呟いた。
正月もそれなりの厳かさの中で明けてしまった。そして龍介は、京都にいる婚約者の那美子とのデートを終えて、この雪国の独身生活へと戻ってきた。
今日は新年最初の日曜日。外が雪では何もすることがない。
龍介は今日一日の外出を諦め、寒々としたキッチンへと入って行った。そして、ヤカンでいつも通り湯を沸かし始める。
しかし、なかなか沸騰してこない。その間、ガスの火に手をかざし、僅かな暖を取る。
やっと湯が沸いた。
お気に入りのマグカップに、スプーン三杯のインスタントコーヒーを入れ、それに溢れるほどのお湯を注ぎ入れた。そして、それを零さないように注意深く持ち運び、パソコンの前にゆっくりと座った。
コーヒーからは朝一番の芳香が立ち上ってくる。
しかし龍介は、そこはかとなく漂ってくる微香を特に感じ取ろうともせず、左手で無造作にカップを持ち上げ、単にすすっているだけ。
一方の右手では、すでにマウスを軽く握り締め、それを忙しく動かしている。
龍介はこんな慣れ切った動作で、最近よく訪問しているサイトへと入って行ったのだった。