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君が袖振る

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 龍介には、拓史が言う彼女が、どの彼女を指しているのかがわからない。話しの流れからすると、結婚を予定している那美子のことか。しかし、拓史は那美子のことを知らないはず。

 それとも、拓史と話題が共有できる彼女、それは今も心の底に眠る綾乃のことか。
 他に、最近気になる瑤子もいる。

「彼女って、どの彼女のことだよ?」
 龍介は単純に聞き返した。すると拓史は、無表情でメニューに見入りながら、一言だけ口にする。

「全部だよ」

 龍介は拓史にこう言い放たれて、後に続ける言葉が見付からない。ビールのグラスを持ち上げ、ごくごくと飲み干した。

 それを見ていた拓史は、「龍介、俺はお前の親友だぜ、今、お前に何が起こって、何がお前を憂鬱にさせてるのか、すべてを聞いてやるよ。いいじゃないか、相談に乗るから、話してみろよ」と促してきた。

 龍介は、確かに最近おかしな事態になっている。拓史がそれを見抜いているようにも見える。

 友人に、今何が起こっているのか、一度話してみるのも良いかなとも思った。

「じゃあ拓史、ちょっと聞いてくれ、実に奇妙な話しを。いやどちらかと言うと、大人の純愛物語なのかも知れないけれどね」
 龍介はこう言って、ぽつりぽつりと語り始める。

 龍介が言うその大人の純愛物語とは、次のようなものだった。


作品名:君が袖振る 作家名:鮎風 遊