君が袖振る
「何してるって? ちょつと用事があってね、単に歩いてんだよ。まっいいや、なあ龍介、久し振りだよなあ、ちょっとそこで飲んでいかないか」
拓史は龍介に笑いながら文句を付け、後は誘ってきた。
龍介は那美子とのデートも終わり暇だった。「ああ、そうだなあ、互いに御無沙汰してたからなあ、ちょっと行こうか」と答えた。
こうして龍介は拓史に誘われるままに、その後ろを付いて行き、近くの居酒屋の小さな個室へと入った。
二人はテーブルに着き、さっそく生ビールを注文した。そして再会に乾杯。
それからまずは軽い世間話し、その後は、懐かしい話題へと会話が弾んでいった。そんな一通りの談笑が終わり、拓史が声のトーンを落とし尋ねてくる。
「なあ龍介、先月同窓会があったんだろ。俺、ちょっと用事があって行けなかったのだけど、どうだった?」
正月休暇も終わり一段落付いた頃、それは誰にとってもあまり予定が入らない時期だ。それを見越してか、つまり一ヶ月前の二月に、高校同学年全体の同窓会が開催された。
龍介は、正直なところ綾乃に再会したくて出席した。そして、そこで思わぬことを知った。さらに思わぬことが起こってしまったのだ。
龍介は拓史が旧友であり、過去の事情をいろいろと知っている手前、この話題にあまり触れたくはなかった。そのためか、「ああ、参加したよ、結構盛り上がってたみたいだぜ」と他人事のように答えた。これをビールを飲みながら聞いていた拓史が、そのグラスをおもむろにテーブルに置き、真顔で聞いてくる。
「そうか、だけど龍介、お前、今度結婚するんだろ?」
これを聞いて、龍介は驚いた。「拓史、なんで知ってんだよ、俺の結婚のことを」と思わず尋ね返した。
すると拓史は、「風の噂だよ」と軽く返し、今度は重い口調で話す。
「なあ龍介、どうするんだよ・・・・・・彼女のこと」