君が袖振る
その日の那美子とのデート、特別なことは何もなかった。京料理店に行き、二人で向き合って静かに食事を取っただけ。
だがそれは陰気なものではなかった。那美子が醸し出す柔らかな雰囲気。それによって、二人の場はふんわかとしたムードに包まれた。龍介はなにか癒されたような気分でほっとした。
那美子が多くを話さなくとも、結婚に向けての高揚感が龍介に伝わってくる。そして、それをお互いに共有できて、充分心が満たされたものだったのだろう。
食事が終わり、その日は那美子に用事があった。そのため、龍介は那美子と早めに別れた。そして、龍介は予約しておいたホテルへと向かった。
その途中のことだった。龍介が街のアーケード内を、いかにも気楽そうにふらふらと一人歩いていた。そのすれ違い様にいきなり声が掛かってきたのだ。
「龍介・・・・・・龍介じゃないのか?」と。
龍介は突然のことであり、驚き、声のする方を見てみると、そこに一人の男が立っていた。ひょろっと背が高い。しかし、どこかで見たことのあるような男だ。龍介は目を凝らして、その男に焦点を合わてみる。
「えっ、拓史じゃないか・・・・・・一体お前、ここで何してんだよ」
龍介は思わずこう返してしまった。
その男とは、高校の同級生の拓史だった。
その青春時代を振り返ってみれば、龍介は地方の町の高校に通っていた。そしてその高校二年生の時に、多くの仲の良い友達がいた。その一人が拓史。
その他に、ガールフレンドとして、綾乃と瑤子がいた。